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死んだら地獄でまた会った! ~戦国武将たちの「墓場まで持ってきた話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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甲斐の迷える子羊〈徳川家康と武田信玄 前編〉

【地獄駿府城にて 徳川家康と武田信玄】



「家康」


「あっ 出たな。甲斐の寅(とら)さん」


「出たなとはなんだ。幽霊みたいな言い方をするな」


「だって悪霊(あくりょう)じゃないか」


「失礼な」


「悪霊退散…悪霊退散……」


「な、何をするっ」


「払い給え、清め給え…」


「おい、やめろ、家康。よく見ろ。お前、自分まで消えかかっているぞ」


「おお……。本当だ。危ないところだったぞ…」


「お前、妙な力が備わっているな。神だからなのか?」


「多分 そうなんだろうな、地獄に堕(お)ちる神というのも間抜けだが…」


「さっきの悪霊払いで、自分も消えそうになったということは、お前自身も、神であり悪霊なのだろう」


「わけが分からん」


「とにかく、無闇にその妙な力を使うなよ。自爆攻撃になるぞ」


「あんただけ消滅させる方法を、研究しておくよ」


「ああ、そうか」


「あれ、怒るかと思ったのにな」


「まあ さっきは焦ったが、別に消されても、問題はなかった気もする」


「そうなのか。なんだか武田信玄らしくない発言だね」


「武田信玄らしくないか」


「らしくないだろう。消されても別に良いなんて、かつてのあんたは、絶対に言わなかったぞ。支配欲と物欲と顕示(けんじ)欲と自己愛と、生命への執着で出来ているような人間だったからな」


「そこまで貶(けな)されたのは久しぶりだが、その通りだったのだろうな。

 実は地獄(こっち)に来てからは、武田信玄らしくないと、よく言われるようになった」


「そうなのか。みんな地獄では、人格が変わるみたいだね。率直で温和になるやつが多いって聞いたよ」


「現世で、演じたり隠したりしていた部分がなくなって、本来の人格に戻るということらしいぞ。地獄はどうやら、性善説で構築されているようだな」


「なるほど。現世では色々と演じる必要があったからか。でもなあ…」


「なんだ?」


「温和な武田信玄なんて、今ひとつなんだよな」


「もしかすると、お前も今、俺と同じことを考えているのかも知れんな」


「さすが武田信玄。人格は変わっても、鋭さはあのままか」


「俺は構わんぞ。あの妙な力が備わった今のお前なら、できるんじゃないのか?」


「できるだろうよ。どうせ、何でもありなんだ。よし、やるか」



――――――――

1572年 浜松城


「ここは?」


「浜松城だよ、現世のね」


「ほう。落とす価値もなかった、あの徳川家康の居城だな」


「こんなことをするのは、今回だけだぞ」


「それはお前の勝手だ。だが俺とお前には、お行儀の良い会話より、思い切り罵倒し合うほうが似合っている。

 お前が言っていた、俺の強欲と自己愛が、現世の空気で一気に蘇(よみがえ)ってきたぞ」


「良いね。俺も、地獄で丸くなっちゃった武田信玄と話しても、退屈なだけだからね。まるで少年漫画で、仲間になったら急に温くなる敵役みたいで、まるで面白みがない。

 あんたとは思う存分、喧嘩したいんだ。でも念のために言っておくが、今の俺たちでも、実体はないからな。殴り合いはできないよ」


「殴り合いなど、望んではいない。俺だってお前と口喧嘩がしたいのだ」


「あんたは甲斐の虎なんかじゃない。迷える子羊だ」


「おお、徳川家康が先制攻撃とは珍しいな。受けて立ってやる。どこが迷える子羊なんだ?」


「目的地も分からず、あっちへフラフラ こっちへフラフラして、やっと目的地を見つけたと思った途端に、寿命が尽きてしまったじゃないか。どうだ、迷える子羊だろう?」


「俺の目的地は、ずっと幕府があった京だった。上洛し、足利家から将軍位を奪い……じゃなくて穏便に譲位して頂き、甲斐に新しい幕府を作る予定だったのだ。

 お前のような似非(えせ)とは違って、俺は歴(れっき)とした源氏だからな」


「似非ね。そこはあえてスルーしておくよ」


「若い頃なら、むきになって反論しただろうが、あえてスルーか。お前にあるのは、そういう狡賢(ずるがしこ)さだけだった。昔も、今もな」


「源氏だから何だ。幕府を作るだなんて大嘘を吐(つ)くな。あんたは強欲を抱(いだ)いて死んだだけだ」


「確かに俺は、強欲を抱いて死んだ。だがあと三年…いや二年でも長く生きることができていれば、俺の宿願だった幕府を作れていた。少なくとも、上洛は果たせていた」


「宿願だと?また嘘を吐いたな。あんたは病に罹(かか)り、自分の命が長く残っていないことを自覚してから急に、上洛なんていう、いかにも守護大名らしい目的を掲(かか)げたんだ。いや そもそも、あんたが そんなことを、本気で考えていたわけがない」


「何を根拠に、ほざいているんだ。俺が親父を追い出してまで、武田家の当主に就いたのは、京を目指すという目的のためだ。

 あえて お前の言葉を借りれば、自分の支配欲と物欲と自己顕示欲を満たすためだ。一見してお行儀の良いお前と比べれば、薄汚れた野望に見えただろうがな。

 だが野望を持って、何が悪い。行儀の良い理想とやらのためなら、人を殺しても良くて、野望のために人を殺すのは悪なのか?」


「いや、野望が悪いなんて言ってはいない。俺だって、天下を取るまでに何万もの人を殺したから、地獄に来たんだしな。

 最後は武力ですべてを決めるのが、あの時代のルールだったんだ」


「武力がルールだと?それは、俺に一度も勝てなかったお前の、敗北宣言か?」


「そんな甘いことを言っているから、あんたは何も為(な)し得なかったんだ」


「なんだと?」


「そうだろう。あんたが俺に勝ったなら、なぜ俺は生き延びた?なぜあんたは死んだ?」


「寿命だと言っただろう」


「寿命が尽きたのは、あんた自身のせいだ。仮にあんたが、本当に幕府を作ろうとしていて、そのために上洛が必要だったなら、なぜもっと早く、そうしなかったんだ。俺も信長もガキのうちから動いていれば良かったじゃないか」


「思い上がるな。俺の敵が、お前と信長だけだったとでも言いたいのか。お前らのような若造以上に、厄介なやつらに囲まれていたのだぞ。

 だからまずは、比較的小さい勢力に分割統治されていた、信濃を平定するところから始めたのだ」


「そんなことは分かっている。でも北信濃の村上義清の援軍に来た上杉謙信と、川中島で十年以上も戦う必要なんかなかった。あんたが防衛線を南へ後退させれば、戦は終わったはずだ。上杉謙信にとっては、信濃より関東の戦のほうが重要で、あんたと争うメリットはなかったからな。

 だが あんたは、川中島に拘(こだわ)った。それは海に面した越後が欲しかったからだ。つまり、京なんか目指してはいなかったんだ。違うか?」



【後編 狡賢い狸】に続く

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