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死んだら地獄でまた会った! ~戦国武将たちの「墓場まで持ってきた話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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封印された夢〈徳川家康と石田三成 前編〉

信長との対話を終えた家康は、駿府城への途上で関ヶ原に立ち寄った。そこで出会ったのは、かつてそこで相まみえた、石田三成だった。

【地獄関ヶ原にて 徳川家康と石田三成】



「やっぱり、信長との会話は疲れるよ。でも 現世(あっち)にいた頃よりは、かなり話が通じるようになっていて良かったよ。現世では、極端に気が短かったし、唐突に話題を変えることも多かった。頭の回転が速すぎるからだったんだと思うけどね。

 しかし 俺も、真っ直ぐ駿府に帰ってもつまらない。どうせ また、(本多)正信の惚(とぼ)けた顔を見るだけだからね。たまには、こうして寄り道してみるのも悪くないな」


「家康殿ではありませんか?」


「おお、三成か。お前と、関ヶ原なんかで会うとは思わなかったよ」


「私も、まさか家康殿がここにいるとは、思っていませんでした」


「お前、ここには よく来るのか?」


「いえ、地獄(こっち)に来てから初めてです。私は、用のない場所には、なかなか行くことができない性分なのです」


「ああ、真面目なお前らしいな」


「そうなのでしょうね。しかし地獄には、私の用などありません。

 ですから私も、たまには気の赴(おもむ)くままに、どこかへ行ってみようかと思ったのです。そうしたら、なんとなく ここへ来てしまっていました」


「お前にとって関ヶ原は、なんとなくで来るような場所かな」


「そうですね。なんとなくで、私がここに来るはずがないですね。でも、どうして来てしまったのか、説明もできません」


「じゃあ、俺が説明してやろうか」


「お願いします」


「お前は、俺に会いに来たんだよ。俺も、お前に会いに来た。互いに引き合って、ここで会うことになっていたんだよ。お前の首を打った、あの日からね」


「ここで会うことになっていた…。徹底した現実主義者の家康殿なら、とても言わなかった台詞ですね。現世では、理路(りろ)から外れたことは、ほとんど言わない人でした」


「そうだな。確かに、そういうことは言わなかった。でも それは、言わなかっただけなんだ」


「なるほど、言わなかっただけですか。

 家康殿は確かに、常に理路整然と振る舞っておきながら、時には理路を外すことでも、平然とやってのけていましたね。その無理を、通すだけの力もあったから、勝者になれた」


「そうだ。俺とお前には、似ている部分が多かったが、お前は決して理路から外れることはしなかった。お前が、やりたいことをやり切れずに死んだのには、そういう理由もあった」


「それを悔いてはいませんがね」


「知ってるよ。だが…いや、だからこそ俺は、お前という人間を心から惜しんだよ」


「家康殿にそう言われると、つい本音を言ってしまいそうになりますね」


「本音か。良いよ、言っちゃえよ。秀吉にも黙っていてやるからさ」


「そうですか。では、家康殿と私だけの話ということで…。

 あの時、死んだことに悔いはありません。しかし、やり残したことへの未練はありました」


「未練か」


「自分の思い描いた国を作るという、儚(はかな)く愚かな夢と言っても良いですがね」


「お前は、忠義を貫くために、その夢を封印した。それを俺は、愚かだとは思わない。

 そして お前の忠義は、豊臣家というより、秀吉に対してのものだった。秀吉の死後、どいつもこいつも私情に傾き、豊臣恩顧(おんこ)の臣なんて有名無実化していく中、お前は秀吉の恩顧に殉じた。見事な死に様だったよ。お前が、あの時代 最後の忠臣だったのかも知れない。

 しかし一方で、封印されてしまった夢は、この国の平和的発展のためのものだったよな。

 秀吉への忠義も見事だったが、石田三成には、この国の発展のために生きて欲しかった」


「そこまで評価して頂いていたとは、光栄です。家康殿が仰(おっしゃ)っている意味も理解できます。

 しかし私には、秀吉様が亡くなっても、その恩義を忘れることはできませんでした。それを蔑(ないがし)ろにしてまで作った国が、真に平和になるとは思えなかったのです。だから、命賭けで豊臣家を守ろうとしました」


「胸に深く刺さる言葉だよ」


「批判でも皮肉でもありませんよ。

 確かに、国の平和的発展のためならば、権威を失った既存の政権を倒すのも、有効な手段の一つだったと思います。秀吉様も、そういう考えの人でした」


「室町幕府を、本当に滅ぼしたのは秀吉だったからね。あの気の短い信長でも、やらなかったことだ。〈殺してしまえ ホトトギス〉なんて、とんでもない誤解なんだ。

 室町幕府を滅ぼした豊臣秀吉と、その豊臣政権を滅ぼした徳川家康…特に、豊臣秀頼を死に追いやって、国を完全に掌握した徳川家康こそ、殺してしまえ ホトトギスだったんだ」


「しかし織田信長という人も、いずれは室町幕府を完全に滅ぼしていたはずです。

 そういう、痛みを伴う改革を断行できる人物が、やはり国の主導者に相応(ふさわ)しいのでしょう」


「現世でも、そこまで考えていたのか?」


「考えていました」


「当たり前だが、利権と保身にしか関心がない者たちの政権は、国の害だ。

 だが、そんな害を取り除くには、一部の清廉(せいれん)な者も巻き込まざるを得ない。改革に痛みを伴うとは、そういう意味だよな」


「はい」


「そこまで分かっていたなら。お前は秀吉への恩義を忘れず、同時に、あの政権の改革を断行できたように思えてきたな」


「私の行動は、矛盾しているように感じますか?」


「正直 言うと、そうだ。

 律儀すぎて融通が利かないお前は、ただただ秀吉への忠義のためだけに、俺と戦い死んでいったのだと思っていた。

 だが今の話を聞いていると、確かに秀吉への恩義もあったのだろうが、それだけでは納得できない部分があるな」


「確かに…そうですね」


「だよな。じゃあ…お前の本当の狙いは、何だったんだ?」



お読み頂きありがとうございます。毎週火曜日・木曜日・土曜日の18:00に最新話を投稿します。

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