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死んだら地獄でまた会った! ~戦国武将たちの「墓場まで持ってきた話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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それぞれの天下〈織田信長と徳川家康 第五話〉

【地獄安土城にて 織田信長と徳川家康】



「それ、聞かれると思ったよ。でも実は、大した理由はないんだよね」


「大した理由もなく、戦えば負けると分かっていたのに、臣従は拒否したってことか」


「そうだね」


「じゃあ、俺が本能寺で死ななかったら、お前は後世に、大馬鹿として名を遺したかもな」


「なんで織田信長に、素直に臣従しなかったんだって言われるんだろうね。まあ 途中からは、従っていたようなもんだったけどね」


「表面的にはな。本心からではなかっただろう?」


「あんたも、それを分かっていたよな」


「根拠はないが、お前だけは絶対に、俺に完全に臣従しないと分かっていた。戦力の差も明白だった。

 だが、俺はお前と戦うのを、躊躇(ちゅうちょ)したかも知れない。勝つとしても、苦しい戦いを強(し)いられただろうからな。そんなふうに感じさせたのは、お前だけだった」


「俺は、戦うのを躊躇するやつばかりだった。中でも あんたとは、一番戦いたくなかった。そんなこと、考えただけでも背筋が凍ったよ」


「つまり、長く同盟していたうえ、互いに戦いたくなかったのに、俺が死ななければ、戦いは避けられなかったわけだな」


「そうなった理由を聞きたいんだよな?」


「そうだ」


「俺が、あんたに心から臣従する気になれなかったのは、あんたの〈天下布武(ふぶ)〉ってやつのせいだ」


「俺が使っていた朱印だな。あれが気に入らなかったのか?」


「強いて言えば、そうだね。ほら、大した理由じゃなかったでしょ」


「もう少し、詳しく説明しろ。天下に武を布(し)くなんて、あの時代なら当たり前のことだ。あれの、どこが気に入らなかったんだ?」


「ああ、俺も当たり前だと思うよ。形骸化(けいがいか)した官位やら官職やらは、何の役にも立たなかった。金とコネがあれば、官位なんて簡単に買えたしね。

 むしろ、武力が全てに優先すると割り切って考えたほうが、よっぽど良い。

 あんたは、愚かな将軍を追放することで、そのことを国中に示した。あれは、とても分かり易い意志表示だった」


「分かり易いというのは、非常に重要なことなんだよ」


「そうだよ。あんたのやることは、勉強になることばかりだった」


「神君のお褒めの言葉、感に堪(た)えないが…」


「そうなんだ。〈布武〉には、何の反論もないよ。それに、あんたが使っていた布武という言葉は、武力で征服するという意味じゃなかった」


「武力とは、世の秩序を保つために必要なだけだ。そして秩序を保てば、経済が加速する」


「まったく、考えれば考えるほど、織田信長という人は強くて優しくて頭が良いよ。天下布武という理念にも、それが表れている。

 でも俺には、あんたが見ていた〈天下〉が、ちょっと物足りなかった。ただ、それだけだよ」


「そうか。では、お前が見ていた天下とは何だ?」


「俺が思う天下は、日本人が生活を営んでいる、すべての土地だ。具体的には、東北から九州までだ。蝦夷(えぞ)の一部も含まれる」


「なるほど。それで俺が見ていた天下が、お前には、取るに足らんもんだったのか」


「ちょっと物足りなかったって言ったんだ。本当に、ちょっとだよ」


「俺にとっては、山城・大和・河内・和泉・摂津の五畿内(きない)が天下だった。だから天下布武とは、畿内に武力と経済で、安定した秩序をもたらすという意志表示だ。

 だが、畿内だけ平和で栄えていれば、他は知らんという意味ではないぞ」


「分かっている。あんたが天下布武の朱印を使い始めたのは、岐阜に本拠地を移した頃からだ。

 その後 建立した安土城だって、近江だった。畿内にも あんたの直轄領はあったが、本拠地を京に置こうとはしなかった。

 それどころか、足利義昭のために二条御所を修復までしてやった」


「まだ、話がよく分からんな。俺はまず、畿内の秩序と、将軍の権威を回復させるところから始めようとした。だが、さっきも言ったように、その他の地域はどうでも良いと思っていたわけではない。

 お前も言ったが、俺の本拠地は近江や美濃だったし、畿内の秩序を守るためには、隣接する地域にだって、武力による安定をもたらす必要がある。つまり中国や四国、あと美濃に隣接する東海・甲信越もそうだ。

 足利義昭が、俺の予想以上に愚かだったせいで、御所から追い出さざるを得なかったのは、誤算だったがな」


「あんたは、幕府も朝廷も保護していた。天下布武というのは、そういう意志の表れだよな。

 まあ その後の将軍との対立や、保身しか考えない廷臣らの影響もあって、自分が、なりたくもない王になって、この国を根本から改革するしかないと、考えるようになったんだろうけどね」


「そうだ。ままならんことが多かった」


「そういうのもあったから、俺は朝廷がある京から、なるべく遠いところに政権を置きたかったんだ。

 でも、あんたが考える天下は畿内だった。そこから初めて、隣接する土地にも布武を進める計画だったのも分かる。

 ただ俺には、京に、権威も権力も、武力も経済力も、さらには文化も人も集中するという国の姿が、どうしても悍(おぞ)ましく感じられたんだ。

 そして、織田信長ほどの男が見ている天下が、既存の範疇(はんちゅう)に収まっているのが、ちょっと物足りなくも思えた。

 言葉で表現するのは、とても難しかったけど、上手く伝わっているかな」


「十分 伝わっている。お前は大した理由はないとか言ったが、それは、俺には重大な理由だと思えるぞ。お前が俺に従っていたら、畿内が天下だと、認めることにもなっていたんだ。

 その後、俺が光秀に殺されたのは、結果論だからな」


「だから、上手く言えないのが、自分でも歯痒(はがゆ)いんだ。悍ましいけど、それが間違いだと言える明確な根拠もない。

 だから、あんたに完全に臣従してしまい、天下布武に全面協力したほうが良いのかと、何度も悩んだんだよ。田舎者の俺の、京に対する憧憬(しょうけい)と嫌悪でしか なかったのかも知れないしね」


「分かった。とにかく結果的には、京から遠く離れた江戸に、お前が幕府を作った。

 だから天下は、畿内だけではなく、日本中を指す言葉に変わりつつある。俺が目指した天下と、お前が作った〈新しい天下〉、どちらが良かったのかは、もう分からないがな。

 しかし、あの天下布武が、そういう結果に繋(つな)がるなんて、考えもしなかった」


「だから、大した理由じゃないって言ったんだよ」


「あの朱印のせいなら、確かに大した理由じゃなかったかもな。だが、お前が見ていた天下が、俺のより何倍もでかかったとは、恐れ入った」


「ああそう。もっと反論されるかと思っていたよ」


「幕府を江戸に置いたのに、自分は駿府で、重臣らも江戸から遠ざけた意味が、分かった気がする」


「ああ、あれはただ、近くにいると鬱陶(うっとう)しいからだよ」


「あっそ。ところで…話が随分と長くなったな」


「そうだね。あんたとの会話は面白いけど、気が抜けなくて疲れたよ」


「俺もだ。立合いみたいだな」


「ここらで一度、帰らせてもらうことにするよ」


「ああそうか。だが、せっかく安土まで来たんだから、ついでに堺でも見物して行けよ。案内も付けてやるからよ」


「お気遣いは嬉しいが、お断りするよ」


「遠慮するなよ。もし何かあっても、伊賀の山道には、詳しいんだろう?」


「おかげさまでね。

 だが……あんなの、もう懲(こ)り懲(ご)りだよ」



信長や家康は、今後の色々な作品に登場します。誰と対話するのか楽しみにお待ちください。

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