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死んだら地獄でまた会った! ~戦国武将たちの「墓場まで持ってきた話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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経済とは何だ?〈織田信長と徳川家康 第四話〉

【地獄安土城にて 織田信長と徳川家康】



「俺は確かに、外交には向いていない。従わせるか、滅ぼすかの二択が基本だ。だが、それがなんだと言うのだ?」


「北条氏政に命じて、東から駿河を攻めさせるって言っただろう?」


「……………」


「会話の途中に、あんたが黙り込むなんて珍しいな」


「北条氏政は、お前を攻めないってことか?」


「そうだよ」


「北条は、俺に同盟を申し込んで来ていた。それも、対等な条件ではない。ほぼ臣従するような形でだ。それが、なぜ俺に従わない?」


「北条氏政は、あんたの甲州征伐にも援軍を出した。冬の箱根を越えるのに手間取って、到着した頃には、戦は終わりかけていたけどね」


「そうだ。あの時から俺に、進んで協力していたじゃないか」


「やっぱり気づいていなかったんだな。あの頃 関東で、あんたでも無視できない程の勢力だった北条家が、そのプライドを捨てて あんたに従う姿勢を見せていた。

 だが あんたは、それを足蹴(あしげ)にした。甲州征伐後の論功行賞(ろんこうこうしょう)が、それを物語っているじゃないか」


「待て。北条家は、あの戦に遅参したのだぞ。分配する領地など、なくて当然ではないか」


「分配する領地がないだけなら良かった。だが あんたは、上野(こうずけ)の大半を併合し、滝川一益に与えてしまった。

 当時 上野は、武田家と北条家で争っていたんだ。つまり北条氏政からすれば、上野を織田家に横から攫(さら)われたことになる」


「だが、北条家が領有していたわけではない。そこを武田から奪い取っただけではないか」


「それも間違いではない。だが、当然のようにそう考えるあんたは、やっぱり外交には向いていない。あれで北条氏政は、あんたへの臣従を考え直したんだ。

 あんたの死後、北条が一切迷わず、上野の滝川一益を攻め立てたのは、そういう事情もあったからだ」


「なるほど」


「だから、俺があんたと手を切ったら、北条氏政も俺に同調した可能が高いんだ。つまり、あんたが命じても、駿河を攻めはしない」


「よく分かった。だが俺の兵だけでも、三河は取れる」


「取れない。長篠の戦いとは違う」


「違うとは、具体的には?」


「俺はあんたの軍と、真っ向から対峙なんかしない。仮にあんたに三千挺の鉄砲があっても、地の利を活かし、的を絞(しぼ)らせなければ互角に戦える」


「だから?」


「だから…戦は互角で…」


「互角なら俺の勝ちだってことくらい、分かるよな」


「うっ…。ならば、甲斐・信濃の国衆を煽(あお)って一斉蜂起させる。やつらには、あんたへの恨みがあったからな」


「恨みはあっただろうが、恐怖と安堵のほうが大きい。やつらは三河攻めの戦力にはならんが、俺の足を引っ張ることもなかったはずだ」


「じゃあ、毛利や上杉と同盟して…」


「それも言うと思ったぞ。だが俺が死んでいなければ、秀吉も勝家も戦を継続した。毛利も上杉も、お前に手を貸す余裕などない。長宗我部も似たようなもんだ。

 ちなみに北条も、佐竹との火種を抱えていて、お前に積極的に加勢はできない。北条に、上野くらいは取られたかもしれんが、それでも俺とお前の戦いに影響はない」


「やっぱりジリ貧だな」


「互角なら俺の勝ちだって言っただろう?」


「そうだね。国力が違い過ぎる。…投了(とうりょう)だ」


「皮肉だったな」


「何が?」


「穴山梅雪を見殺しにしたことだ」


「そうだったね。あいつが死んで、駿河・甲斐の統治が怪しくなった。そして三河が戦場になって半年も経てば、俺の領内はボロボロだ。そこで、あんたの最大の強みの経済力が物を言う。

 もし穴山梅雪が生きていても、ちょっとした延命にしかならなかった」


「外交も大事だが、その前に、自領の経済なんだ」


「何度も外交による包囲網を張られても、あんたが動じなかったのは、それを知っていたからなんだな」


「同盟とかいう言葉は、心強いように感じるが、結局はただの寄せ集めで、それぞれの都合を優先するものなんだ。だから、外交に過度に期待はしない」


「あんたが言うと真実味が違うよ」


「浅井長政のときに骨身に沁(し)みたぞ」


「秀吉と戦ったときにも、急造の同盟がいかに脆(もろ)いかを、思い知った」


「やっぱり、お前の天下はなかったな」


「あんたの政事や軍事を支えていた圧倒的な経済力には、俺では足下にも及ばないからな」


「そうだ。簡単な話だよな。武田軍も上杉軍も確かに強かったが、勝ったのは俺だ。

 一人の兵やの戦闘力より、動員できる兵数と、戦線を維持できる日数のほうが重要なんだ。あとは装備の質とか、将兵への最低減の報酬の保証とかな。

 それらすべての根幹が経済力だ」


「地獄でこうして、聞いて言うだけなら簡単だ。だが、現世で気づいて実行までしたから、織田信長は覇者になった。

 他の誰もが、生産力の高い農地や、貿易・輸送に向いた海や河の重要性には気づいていた。だが そこに〈経済〉という概念は、ほとんどなかった」


「そもそも、経済とは何だ?」


「経世済民(けいせいさいみん)。世を経(おさ)め、民を済(すく)う」


「その通りだ。Economy(エコノミー)を経済と訳したせいで、本来の意味が失われてしまったがな。

 政事や軍事だけでは、民を済えない。国の大本は民で、その民を済うのが経済だ」


「本来の意味の〈経済〉が、政事と軍事の根幹になる。つまり経済を制する者が、天下を制するんだな」


「その通りだ。さすが、天下を制した者だけのことはあるな」


「そんな言葉、嬉しくないよ。あんたが築いた経済基盤を引き継いだ秀吉から、息子の秀頼と一緒に託されただけなんだ」


「託されたはずのものを、奪って殺したしな」


「殺してはいない。降伏を勧めたが、秀頼は自害した」


「降伏しても切腹だろう。だったら同じだ」


「そうとも言う」


「まあ どうせ秀吉の息子に、経済なんて理解できなかっただろうしな」


「経済っていうのは、単に頭が良いだけじゃ理解できないからね。あんたみたいに、独特の感覚が必要なんだ。

 俺も、あんたがやったことを真似するのが精一杯だったよ。通行税をなくして、街道を整備して 、人流・物流を活発にして、中部・北陸から畿内にかけて一大経済圏を作り出した。

 さらに、鉄砲の製造地の近江国友を手厚く遇し、貿易港の堺には直属の代官を置いた。各地で戦をやりながらだ。あんたは、とんでもない人だよ」


「ちゃんと分かってるんじゃねえか」


「だから…。江戸幕府が、あんたのイメージをイケイケ オラオラ系にしたのには、複雑な事情があったんだよ」


「ああ そうかい。別に良いけどよ。

 しかし、こうして話したせいか、自分の天下ってやつも見てみたかったなんて、今さら思えてきた」


「俺も、織田信長の天下を見てみたかったよ」


「俺が死なず、天下を取ったなら、お前は生きていなかっただろう?」


「ああ、そうだったね」


「一つ聞きたい。俺に勝ち目がないと分かっていても、お前はやはり、俺に完全に臣従はしなかったか?」


「しなかっただろうね」


「それは、どうしてなんだ?」



お読み頂きありがとうございます。毎週火曜日・木曜日・土曜日の18:00に最新話を投稿します。

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