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ゴッドブレス・ミー  作者: tonton
第二章 学園編
42/50

第41話 棘

「…う、ううぅん…」



 っ…身体が(だる)い…何だこれ。

 身体を起こそうとするが、まるで泥の中を這いずっているみたいに、空気が身体に纏わりつく。

 目覚めた俺がいたのはベッドの上だった。清潔感のある白い部屋。何となく見覚えがある。左手に木の扉、右手に窓が見える。窓からは穏やかな風が吹き、薄手のカーテンを揺らしている。

 状況を把握しようと身体を起こしたところで、扉が開いた。



「アッシュ…?目が覚めたの!?」

「ユキカゼ…か?」



 花束を持ったユキカゼだった。勢い良く駆け寄ってくる。おっおおう。



「大丈夫なの?どこか痛くない?具合は?喉とか渇いてない?何か食べる?」

「そんな一気に聞くなよ。」



 自分自身、現状が分かってないんだから。



「俺ってどうなったの?」

「覚えてないの?」

「ああ。教えてくれるとありがたい。」

「まあ、誰もよく分かってないと思うけどね。」

「?どういう意味?」



 聞かされた話は全く覚えていない、というか知らない話だった。

 決闘でブリッツが暴走し決闘場が炎上した事。それ以降の記憶が誰にも残っておらず、闘技場内の皆がいつの間にか外で倒れていたという事。怪我人は立会人のラムダさんと俺だけだという事だった。

 そしてここが街の治療院だと聞かされた。なるほど、道理で見覚えがあった訳だ。



「他のみんなは先生達に事情を聴かれてる。私が最初に終わったから様子を見に来たのよ。」

「そっか。ありがと。」



 少しずつだが思い出してきた。ブリッツの暴走に俺がキレたんだ。アインへの魔法攻撃、ベルクさんへ怪我を負わせて反省すらない不遜な態度。

 怒りで目の前が真っ赤になって、それで…それで…どうしたんだっけ?



「ちょ、大丈夫!?」

「何が?」

「何がって…アッシュ、泣いてるよ?」

「え…?あれっ…?」



 いつの間にか俺は泣いていた。涙が止まらない。自分の意思で止めることが出来ない。

 胸が痛い。小さな、鋭い棘が俺の心に有るのが分かる。

 だけど、思い出そうとしてもまるで靄がかかった様に思考が纏まらなくなっていく。

 まるで何かに邪魔されているみたいだ。



「ほら、横になって。お水飲む?」

「…大丈夫、だ。ちょっと頭が痛くなっただけだから。」



 ユキカゼが俺の背に手を添え、ゆっくりとベッドに寝かせてくれた。

 小さな手から気遣いが伝わってくる。



「ありがとう。何か手慣れてるな。」

「実家でお婆様の介護をしてたから。」

「そっか。…ふうっ。」



 ベッドに身体を横たえ、溜息をつく。ユキカゼが言うには、俺は全身の筋肉が極度の疲労状態、身体中の骨にヒビが入った状態で箇所によっては折れていたらしい。それ以外の目立った怪我は拳の部分の裂傷だけだったそうだ。



「事態が分かってないみたいだけど、本当に覚えてないの?」

「ああ。こんな派手に怪我したら覚えてそうなもんだけどな。そういえば、あのアホ…ブリッツはどうなったんだ?」

「退学よ。あんな衆人環視の中であれだけ暴走したんだもの。親も完全に見放してるらしいわ。アイツと違って清廉潔白な人らしいから。」



 そんな人物からでもあんなのが生まれるのか。自尊心の塊みたいなヤツだったし、甘やかされて育ってしまったのだろう。



「ゆとり教育ってダメなのね。」

「でも、詰め込み教育も良くないんだぜ。」



 経験者が言うんだ、間違いない。

 そんな話していると窓から夕日が差し込んできた。

 もうそんな時間か。結構話し込んでいたらしい。

 絶妙な角度で夕日が差し込んでいるのか、メチャクチャ眩しい。…掛けているメガネのせいか。

 俺のメガネは大怪我で運び込まれたにも関わらず外された形跡はない。このメガネ、他人は”外そう”という意識にならないのだ。神の御業、万歳。

 …ん?神って何だ?


 ふと浮かんだ疑問を頭の隅に追いやりながら、俺はメガネを外す。アインとの約束はあるが、ここは学園じゃないし構わないだろう。



「……………えっ?」

「…?何?」

「アッシュ…なの?」

「そうだけど…」

「え、ずっとその顔?」

「どういう意味だよっ(怒)。」



 目を点にして俺の顔をガン見するユキカゼ。素顔見せた事がなかったせいか、マジマジと見つめてくる。



「ご、ごめん。想像以上だったから。」

「どういう意味?」

「べ、別に何も。…アンタにメガネを渡した子、良い判断ね。」

「理解出来るように言ってくれよ。」

「…言わない。言ったら負けな気がする。」

「いや、教えてよ。」

「言わない!」



 本当に何なんだ。デッドやヴィーが来るまでこのやり取りは続いた。

 ベルさんもお見舞いに来てくれた。何故かベルさんが部屋に入ってくる直前にユキカゼに強引にメガネを掛けさせられた。何なんだよ、まったく。

 ベルさんは物凄く申し訳なさそうにしていたが、これは俺の自業自得。

 必死に笑いを取ろうとする俺の姿に気を使ってくれたのか、最後は笑ってくれた。


 俺は今日1日様子見のため入院する事になった。筋肉のダメージや骨折については魔法で完治済みらしいが疲労を抜くため、らしい。

 みんなが帰ってから暫くして、ドタドタと廊下から騒がしい足音が聞こえてきた。



「アッシュ、入るぞぉー!」「あっくん死んじゃ駄目よー!」「ちょ、みんな押さないでよ!」「わうー!わうー!」



 ドアを吹き飛ばす勢いで部屋に押し入って来たのは、ベルクさん一家。全員が今にも泣きそうな顔をしている。



「…店はどうしたんですか?」

「すまねえ、来るのが遅れちまって!店の客を全員叩き出すのに時間喰っちまった!」

「いや、それ問題でしょ!」



 そんな事してたらお客さん来なくなっちゃうよ!何してんのベルクさん!



「パパがお留守番してれば問題なかったのにぃ。」

「俺だって心配だったんだよ!店でジッとなんてしてられるか!」

「わぅ~…アシュレー君大丈夫?お肉食べる?」

「入院患者に開口一番お肉って…」



 一家は今日も平常運転だ。

 俺は何とも微笑ましい気持ちになった。













 なのに、何故、こんなに胸が苦しいんだろう。



オオイさんは一体どうなってしまったのか…!

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