第40話 友達
魔人が何故他種族と共存する道を選ばなかったのか。選ばなかったのではない。選べなかったのだ。
それは魔人特有の特性故であった。圧倒的な潜在魔力。他種族と一線を画す特殊能力。それだけならば共存は可能であった。
だがしかし、魔人には他者を遠ざける根本的な原因があった。
それが、内に宿す残虐性である。
この残虐性は魔人であれば多かれ少なかれ、どの様な者にも存在する。その者がどれだけ理性的であろうとも。その者がどれだけ慈愛に満ちていようとも。
むしろ普段が残虐というそれとかけ離れていればいるほど、それは色濃く浮かび上がる。大海の様に全てを包む慈愛にも底の見えない昏く深い深淵が。
太陽の様に明るく温かい心根にも、それに照らされる夜の月の如き凍える輝きが。
光に対する影のように善と悪を内包する。
魔人の血を受け継ぐ限り、その業からは逃がれられない。
アルバート・ドグ著
「魔族概論」より抜粋
~~~~~
「クハハハハッ!!!」
『はははっ…て。…こりゃ洒落にならないな。』
イザベラ学園、闘技場。
そこには恐ろしい光景が広がっていた。ひび割れた建物。陥没する地面。燃え滾る山の火口を覗いたかの様な高温。そして、致死性の攻撃魔法が空間を埋め尽くしている。
炎、氷、風、雷、岩。古の大戦でもこんな危険な戦場は数える程しかなかっただろう。
その戦場の中心には2つの影。黒い魔力を噴き出し、瞳を狂気に染める少年。それに対するのは体調30センチの豆しばだ。
これから始まる戦いは、誰の目にも触れない戦い。だがしかし、この世界の歴史上、屈指の戦いである。
『まずはこれから。〈万象の王〉。』
中空に浮かんでいた数多の魔法。それらが一気にアシュレーを襲う。
「ガァァァァァァ!!!」
ドッパァァァァン!
飛翔する魔法は、アシュレーに届く前に砕け散った。
魔力を乗せた咆哮。
ただそれだけで。
『威力を抑えたとはいえ、こんなにアッサリ防ぐなんてね。凄まじい魔力だ。ほとんど神々側と言ってイイ。…これはこのままじゃ無理か。』
「ゥゥゥゥゥ?」
そう呟き、オオイは周囲に目を走らせる。周囲には生徒達が倒れたままだ。
『〈転移門〉。』
その詠唱で闘技場は2人きりになった。〈転移門〉を生徒達の真下に展開し、強制的に転移させたのだ。
『これで遠慮はいらなくなったけど…正直余裕が無いね。』
ステータス面で劣っていたとしても、オオイの優位は覆らない。例え犬の容姿であろうとも、”神”である事に変わりないのだから。
だが、神は現世への介入を制限される。強大な力を持とうとも無暗に振るう事は出来ないのである。それを無視してしまえば、オオイは現世に形を保てなくなる。
むしろ今の魔法の行使でいっぱいいっぱいだった。
『だからといって、君をこのままにはしておけない。その状態の君が誰かの目に触れれば…やっと手に入れた君の日常は、あっけなく終わるだろう。』
「ハァッ!!!」
『おっと。』
ドゴンッ
オオイが後ろへ下がった直後、その場が陥没した。その中心にはアシュレー。視認不可能な速度で攻撃が繰り出されたのだ。
「ガァッ!!!」
『アッシュ!目を覚ませ!』
闘技場の至るところが陥没していく。アシュレーの魔力を込めただけの拳で、頑強な岩の舞台が破壊されていく。避け続けるオオイにも余裕はない。だが、それ以上に、アシュレーに余裕がない。
アシュレーの拳から血が滴っている。筋肉の軋む音が闘技場に響いている。明らかに限界を超えて肉体を使用していた。にも関わらず、アシュレーは意にも解さない。今は動けているが骨も数か所折れているだろう。
このままではアシュレー自体が壊れてしまう。
『後は頼んだよ、豆太郎。』
「(…オオイ様?)」
オオイは決意する。憐れなこの子を救うため。そして、自身を手伝ってくれていた子犬に別れを告げた。
『君は僕にとって、子であり、弟であり、そして…友達だ。』
「ウ、ウウゥゥ…?オオイ、サ…ン?」
『静寂の海に沈め 憐れなる子羊よ 大樹の木陰に休め 道を違えし旅人よ 天に楯突き徳を唾棄する咎人よ 御霊を鎮め その身を鎮めよ』
「(オオイ様!!!)」
『…僕は消えない。ずっと一緒だ。』
静かに青い光が広がる。そして目を開けていられない程の光が、闘技場を埋め尽くした。
『〈静かの海〉』




