第42話 決意
更新が遅れ本当に申し訳ありません。
これからまたちょくちょく書いていく予定です。
「最近のアッシュについて、どう思う?」
「う~ん、やっぱり変よねぇ。」
狼の昼寝亭での一幕。
昼食時のラッシュを乗り切った二人が、水場で皿の油汚れを落としながらアッシュについて話していた。
決闘があった日の翌日から、明らかにアッシュがおかしい。表面上はいつも通りに取り繕っても、そこはまだ子供。大人二人の目は誤魔化せてはいなかった。
だが、例え大人でも心の中までは覗けない。その原因については見当がつかなかった。
「あの貴族のガキ…何かしやがったのか?………」
「もうパパ!昔の目になってるぅ!ダメだよ、私と約束したでしょお!」
「す、すまねぇ。」
「それに、そういう悩みじゃないと思うよぉ?」
「ああ、そうだな。あれは自分でもよく分かってない感じだ。」
「ところでパパ、裏庭に小屋が建ってたんだけど、あんなのあった?」
「小屋…?そんなもんあったか?」
「うん、犬小屋だと思うんだけど。」
「う…ん…?作った記憶があるような…ないような…?」
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「アッシュ…本当にどうした?」
「…え?何が?」
「いやいや、ずっと話し掛けてたのに反応無いんだもん。オイラ達、挫けそうだったよ。」
「ああ…ごめん。」
「それでどうしたんだよ。」
「………」
「お~い。」
「重症ね。」
昼休みの食堂。
美味しそうなサンドウィッチを目の前に俺はボーっとしていた。
体調は問題ない。治療院を退院してから全くの健康体だ。
骨折していたという話だったが後遺症も見受けられない。
だが、今の俺は身体ではなく心が、不健康だった。
決闘から三日が経過していた。
ブリッツは退学し別の都市の学園への編入していった。父親であるミーデル男爵からは半ば厄介払いで遠ざけられたらしい。
編入先も辺境の地方都市らしく、もう二度と会うことはないだろう。
対戦相手の俺については”バカな貴族に絡まれた不幸な少年”という認識で悪目立ちする事はなかった。
そういえば好きな服を着せる権利を使いそびれてしまった。また会うことがあればピエロ服でも着せてやろう。
決闘を見学していた学園の生徒は、ブリッツの暴走以降の記憶が無くなっていた。
どうして一斉に皆が記憶を失ったのか。どうして全員が闘技場の外にいたのか。
不自然な部分が多かったが、”ブリッツの魔法で全員が酸欠状態になり気絶した”という事で決着した。
まあ正直そんな事はどうでもいい。重要なのは、俺の心の中の、とある感情だった。
喪失感。決闘の日以来、俺はそれを感じていた。
まるで自分の身体の一部を失ってしまったかのような。大事なものを手放してしまったかのような感覚。
そして罪悪感。今、こうして学園生活を送っている事に後ろめたさを感じている。
なのに、どうしてそんな感情を抱くのか、原因が分からない。
そんな状態でメシが美味い訳もなく、ただみんなとの付き合いでテーブルについていた。
「食欲がないならお茶だけにすれば良かったのに。」
「あ、うん…何かコレ、気になって。」
このサンドイッチを誰かと一緒に食べた気がする。
この一本足鳥のサンドイッチを。
父さんや母さんか?
俺はモヤモヤした気分のまま帰宅した。
~~~~~
俺は何を忘れているんだろう。
何に罪悪感を感じているんだろう。
そして…何を失ったんだろう。
学園からの帰り道。
トボトボと頭を悩ませながら歩く。途中何度も商店街の人や顔見知りとすれ違ったけど、誰も声は掛けてこなかった。
最初の頃は皆心配してくれて何度も声を掛けてきたが、俺の悩みの性質が話し合いで解決できないものであると知り、今ではあえて声を掛けてこない。
…気を遣わせてしまっている。
「わんわん!」
「ふふっ、こっちだよ、タマ!」
「…ん?」
民家の軒先で、小さい人族の女の子と子犬が戯れている。
微笑ましい光景。だけど俺は違和感を感じていた。
犬にタマって。それに…
「普通、犬の鳴き声は「ふぁん」でしょ。…ん?」
いや、俺は何を言ってるんだ…?犬は「わん」だよ。
何だよ、「ふぁん」って。その気の抜ける鳴き声は。
だけど…だけど、確かに俺の中では「ふぁん」が普通なんだ。
目頭が熱い。また涙が出そうだ。
最近ずっとこうだ。何か心に引っ掛かりを覚えると胸が痛くなって涙が出てくる。
そして頭に霞が掛かって…何も思い出せなくなる。
だけど、このままで良いのか?一生このモヤモヤした状態で過ごすのか?
絶対に御免だ!
俺は堪える。意識をしっかり保つ。
ここで思い出さなければ、俺は一生思い出せない!
何だ?俺は何を忘れている?
絶対に、絶対に思い出してやる!
整理しろ!霞が掛かる前に手掛かりを心に刻み込め!
まず犬だ!犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬!!!
そして変な鳴き声!
「ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁんふぁーーーーーーーーん!!!」
「ど、どうしたアッシュ、奇声上げて?」
オードさんとすれ違ったが、今は気にしている暇はない。
俺は猛ダッシュで宿へ走っていった。
この決意が意味のないものだとは、思いもせずに。




