009 新手のナンパ
太陽の神官レアンドロの胸の鼓動が、月の巫女ルナに響く。
(うう、このお姫様抱っこ、心臓に悪い。一応、うぶな女子高校生なのよ!しかも中高一貫女子校の温室育ち!!)
男性への免疫が家族以外にないルナに、密着度の高いお姫様抱っこは顔から火が出るほど恥ずかしい。
太陽のピラミッドは高さが65m、底辺の長さが225mで、月のピラミッドよりも大きい。
頂きの太陽の神殿を含めると、天に届くような壮大な建造物である。
(階段が長い!ひいいいいいっ)
心の中で、ルナは叫び続ける。
降りたいけれど、急な階段で怖い。自ずとルナはレアンドロに片手でしがみつく。
頭のスカーフが飛ばないように、もう一方の手でぎゅっと握りしめる。
「怖いか?気持ちいいだろう?この風」
レアンドロの悠長な物言いにルナはむかっとする。
黙って顔を背ける。無視を通す。
彼はルナのつれない素振りを全く気に留めず、248段の急な石の階段を颯爽と駆け上がる。
「お母さん、白い鳥が飛んでるーー」
太陽の広場から、小さな女の子が太陽のピラミッドに向かって、白い鳥のように見える二人を小さな指でさす。
レアンドロの白い衣が風ではためき、青空と石造のピラミッドに映える。ルナの衣もひらひらと舞い、白い鳥が飛んでいるように見える。
「お嬢ちゃんは昨日、召喚されたんだろ?月の神殿から喝采が聞こえたから、こっちは緊迫しててさあーー」
びゅうびゅう吹く風で時折、レアンドロの声が聞こえにくい。
「それはもう、うちの神官長なんてーーーー」
レアンドロが太陽の神官長のこと愚痴る。
「太陽の巫女が君に会いたいって言うから。ごめんね、急に攫って」
彼は攫った自覚はあるんだな、と思うルナ。
ただし、申し訳なさを1ミリも感じない謝罪。
「ところでさ、食べ物は何が好き?ヨーグルトと果物とかーー、キヌアも美味しいからお勧め」
確かに今朝食べた乾燥したキヌアは、ほのかな甘みがあり、美味しかった。果物は甘く、ヨーグルトは黄色くて濃厚だが食べやすい。
「ーーー俺の宮殿に住まない?君に一目惚れしちゃったーー」
風が鳴る中、レアンドロはルナの耳元で、薄いスカーフ越しに甘い声で言う。
嘘を抜け抜けという彼に、怒りを通り越して呆れるルナ。
同じ口説き文句で何人を宮殿に囲っているのやら。
ピラミッドを登るほど太陽に近づく。
大陸を駆け抜ける涼しい風と、太陽の神官レアンドロの暖かい腕の中の心地よさが眠気を誘う。
ルナはうとうとし始め、レアンドロの腕の中で眠りに落ちた。




