010 わがままな巫女
「それ、下げてちょうだい」
赤い石を散りばめた神具を持つ女性は、側付きの女官に横柄に命ずる。
彼女は、胸元が大きく開いた白い衣に身を包み、赤と金糸の刺繍の入った帯を腰に巻く。両手首には金の腕輪が数本、耳にはルビーと赤い羽毛のピアスが揺れる。
顔はあどけないが、真っ赤な口紅と濃い化粧が彼女を実年齢より上に見せる。
女官は、太陽の巫女が殆ど手をつけていない食事を下げる。
彼女はいつも食べられない量を求め、必ず食事を残す。
魚貝のピラフ、白身魚のマリネ、ヒラメの姿上げ、彩り豊かな果物など、10人分はあるご馳走。
「うわあ、もったいない」
太陽の神官レアンドロにお姫様抱っこされたルナが、食べ物の匂いで目を覚まし、女官達がしずしずと下げるご馳走を目で追いながら呟く。
(じゅるるっ)
よだれと共に、また心の声が口から漏れてしまった。
まずいと思って、ちらっと派手な赤い彼女を見ると、じろりと睨まれた。
お、ガン飛ばしか?
ルナ、ギャルっぽく、ガン飛ばし返しをしてみる。
レアンドロの腕の中から、太陽の巫女に喧嘩を売る月の巫女。
説得力がない。
静かにしていたレアンドロは、月の巫女ルナをそっと床に下ろした。
「失礼」
レアンドロの声と同時に、ルナに被せられていた白いスカーフが外される。
視界が明るくなる。眩しい。ルナは目を細める。
神殿を通り抜ける風がルナの頬を優しく撫でる。
月の神殿と同じ作りの太陽の神殿は、装飾が朱色で施されている。白いレースカーテンのような布が、風でふわふわと舞う。
月の神殿よりも高い位置にある太陽の神殿からの景色は圧巻。
ああ、やはりここは違う世界なのだとルナは溜息をつく。
太陽の巫女はじろじろとルナの顔を見る。
そして、「ふん」と鼻で笑った。
「まだ子供じゃない」
(どうみても、同じ年頃じゃない?私たち)
と、ルナは思う。
「まあまあ、まあまあそんなに歪み合わずに仲良く。二人ともお友達になったら?」
両手を挙げて仲裁する太陽の神官レアンドロ。終始、にこにこしている。
「何を言っているの。なんで、友達にならなきゃいけないの!」
太陽の巫女がレアンドロをじろりと見る。
ルナも太陽の巫女と同意見で、彼の顔を見上げる。
「高貴な私がどうして、こんなどこから来たかも分からない者とーーー」
「まあまあ、いいじゃない。じゃ、月の巫女の顔見せはもう宜しいでしょうか。太陽の巫女様」
太陽の巫女の言葉を、レアンドロが遮り、手を胸に当て姿勢を正す。
嘘っぽい丁寧な動作である。
「よろしくない!!」
太陽の巫女が癇癪を起こす。先ほどから何を怒っているのか、ルナには分からない。
レアンドロの手がルナの肩にかかる。ぐっと引き寄せる。
「!!!」
太陽の巫女が驚いて、ぷるぷると震えだす。
驚いて怒りたいのはルナなのに、太陽の巫女の顔が真っ赤になり、きーーーとなった。
ルナはもうどうでもよくなり、ただただ空腹を堪えていた。




