011 嫉妬はこわい
太陽の巫女の前に案内された、月の巫女ルナ。
空腹に耐えながら、ガン飛ばし続行中。
売られた喧嘩を買うあたりが、まだ若い。
巫女同士がにらみ合っていると、ポンッと、大きな手がルナの頭に置かれた。
そして、ルナの頭をよしよしと柔らかい手つきで撫でる。
(距離が近いっ!マジで、お腹すいたっ)
太陽の神官レアンドロに目で不満を訴えるが、まったく伝わらない。
彼の大きな優しく撫で続ける左手を、ぱしっと右手で払うルナ。
太陽の巫女の歯がぎりりと鳴る。彼女の顔がくしゃりと歪む。
「初めまして、月の巫女。私は太陽の巫女ソラ」
シャランと赤い石を散りばめた神具を鳴らす。太陽の巫女として、ルナに威厳を誇示するために神具を持つ。今は儀式中でも祭事中でもないので、本当は、神具は必要ない。
(初めましてから、既にそこそこ時間が経過したと思うけど)
ルナは思う。
太陽の巫女がルナに近づく。
ルナはどうしていいか分からず、固まる。
「月の巫女ルナだ」
代わりにレアンドロが応える。
そしてまたルナの頭を撫でるレアンドロを見て、ソラの顔が更に歪む。
されるがままのルナは大きく息を吐く。
(早くここを去りたい。お腹、すいた。せっかくの観光が・・・・・・日が暮れてしまう。だるい)
ルナは太陽の神殿から、刻一刻と変化する太陽の位置を確認する。
(いま、何時なんだろ?誰も迎えに来てくれない)
ルナは、最初は気にしていなかった遠巻きに見ている野次馬が気になり始めていた。
太陽の神官たちの好奇の視線や、女官のひそひそ声にだんだんと耐えられなくなる。
すごく着飾った一番偉そうな男が、敵意剥き出しでルナを見るのが特に気になる。年配の彼は太陽の神官長だと、レアンドロがルナにそっと耳打ちする。
「やだ、なんで月の者が、私たちの〈赤い獅子〉レアンドロ様の近くにいるのかしら」
「信じられない。離れなさいよ」
「不釣り合いだわ」
女官たちは、ルナに聞こえるように話す。
(アウェイ感、ハンパない。つらいよう)
この状況を打破したい。きょろきょろとルナは周囲を見渡す。さきほど下げられた食事が壁際にまだある。
ルナが壁際の食事を指差して言う。
「ねえ、ソラさん、あのご馳走を私が食べていい?」
(我ながら名案)
これこそ環境配慮。持続可能社会への貢献。
「あなた、何を言っているの?」
蔑む目で太陽の巫女ソラが月の巫女ルナを一瞥する。
「あー、なら、うちで食べる?」
空気を読まない太陽の神官レアンドロは、ひょいとルナを抱き上げた。
またお姫様抱っこ。ルナは空腹で、もう抵抗しない。されるがまま。
背後で喚く太陽の巫女ソラに、レアンドロは気が付かないふりをして、そそくさと太陽の神殿を去る。
「今日はご馳走を食べよう、ルナ」
太陽の神官レアンドロが軽い足取りで、ルナを抱えて走る。
急なピラミッドの階段を駆け降りるスリルは、ジェットコースター超えである。




