019 ルシオの伝言
「日没後、天体観測の石に集合」
神官見習いエリアスから聞いた、月の神官ルシオの伝言。
女子高校生ルナが召喚されたこの国の最北に、月のピラミッドが鎮座する。
月のピラミッドから南へ、幅40m、長さ2kmの〈黄泉への道〉が延びる。
長く幅の広いこの大通りは、日中や祭事のある夜に人でごった返す。
黄泉の道に直行して〈生誕への道〉が東西に延び、最東端には太陽のピラミッドがある。
ルナがタイムスリップした地点は、〈生誕への道〉と〈黄泉への道〉の交差点。
生と死が交わる点、〈ゼロ〉。
(またあの交差点に行ったら、2026年の日本に還れるのかな)
太陽の神官レアンドロに攫われた日、観光中に〈ゼロ〉を通ったが、何も起こらなかった。
(もう一度あそこに行きたいけれど、しばらく外に行けそうもないし)
ルナは、月のピラミッド近くの月の神官ルシオの住む宮殿敷地内の月の巫女の館に住む。
先日、太陽の神官に餌付けされたため、これ以上の接触を避けるべく外出禁止中。
失敗に終わったプチ観光。太陽の神官レアンドロの家でたらふく食べたから、良しとしよう。
本当は、生誕への道を超え、碁盤目状に広がる職人街や商人の居住区も散策したかった。
川を越えて南下すれば、右手に戦士も居住区があり、左手に大きな神殿があるらしい。
召喚される前の古代遺跡で、土手を何重にも張り巡らした石の神殿に寄った記憶がある。
(大通りをここから南に進み左手の大きな神殿。あれかな〜ジャガーとか言ってたっけ)
石造りの巨大な土手の階段を上がっては下りを繰り返し、やっと到着したと思って高台に出たら、地下に下る何百段もの階段の前に女子高校生一同、閉口した。
(あれは、月のピラミッドの階段の次にやばかった)
古代遺跡の彫刻は見応えがあり、巨大な石造建築は迫力がある。しかし、荒野を炎天下で歩き続けるのはきつい。
(それにしても、やっと外に出られると思ったら、ここから徒歩15分の天体観測の石か。つまんない)
天体観測の石の前に市場に行って、買い食いをしたい。
なんなら、観光リベンジ。
(渋谷109的な場所は、ここには無いのかな)
「ねえ、ミルさん。この国の一番イケてるところってどこ」
今日は双子女官のうち、姉のシエンはお休みで、妹のミルがルナの部屋にいる。
「イケてるとは?」
「華やかで、最先端で、ギャルや若者が集う聖地みたいなところ」
「聖地ですか?」
手は休めずに、てきぱきと働きながら考え込むミル。
「ぎゃるが何だか分かりませんが、若者が集う場所ならあります」
「ほんとう!」
ガタッと勢いよく立ち上がる。白い布地のワンピースがふわりと揺れる。
「どこにあるの?行きたい!」
「ジャガーの神殿です」
「あ、知ってるかも」
「老若男女が通い、豊作や健康を神殿で祈ります。ふふっ、たまにこっそり男女の密会がーー」
双子女官ミルが自分の世界に入る。
「それ、本当の聖地では?」とルナは思ったが、巫女教育の一環という理由でミルを説得し、ジャガーの神殿に行くことになった。




