017 キザな侵入者
鳥の彫刻が施されたアーチ型の柱が連なる回廊から一歩中庭に出ると、灼熱の太陽の日差しが肌をじりじりと焼く。
ルナは回廊のソファから、中庭の噴水を眺める。
(学校の授業でもここまで長くないわ。座りすぎて、おしりが痛い。このふかふかのソファ、いい〜)
ただいま巫女教育の休憩時間。
月の巫女館の応接間から逃げ出し、月の宮殿のお気に入りスポットでルナは寛ぐ。
(そういえば、太陽の神官レアンドロの宮殿も同じ造りだったなあ。ごはん、おいしかったけれど、あんまり覚えていないのは、なんでだろう?)
月の神殿は中庭を中心に部屋が配置されている。柱廊は2階にもあり、1階の奥の食堂にはテラスがある。
レアンドロの宮殿の中庭には、太陽を連想させる真っ赤な薔薇が咲いていた。薔薇の花束のような見事な植栽だった。
一方、月の神官ルシオの宮殿の中庭の薔薇は黄色。中庭の柱には鳥をモチーフにした装飾が施されている。漆喰の白い壁、石の柱、所々に青を基調とした壁画がある。宮殿の壁の白と青を背景に、淡い黄色の薔薇が映える。
小さな虫がぶんぶんと薔薇を回遊して、飛び回っている。
(のどかだわ〜)
ぼんやりと中庭から雲ひとつない空を眺めていると、屋根からひょこっと顔が出た。
ルナは思わず声を上げそうになったが、飲み込んだ。
太陽の神官レアンドロが、ちょいちょいと手招きをしている。
赤い髪の毛が太陽できらめく。黙っていると、なかなかの美丈夫である。
見なかったことにしようと、ルナはソファに座ったまま目を閉じる。
(私は何も見てない。何も知らない。赤い羽男なんて知らない)
何かが近付いた気がして、目を開ける。
鼻が付きそうな位置にレアンドロの端正な顔があり、ルナが仰け反る。
目で、「何してんの!」と訴える。
レアンドロは人差し指を口に当て、しーっとする。レアンドロの赤い髪がルナのおでこにかかり、さらさらしてくすぐったい。
ルナが睨むと、彼はサイドテーブルにお菓子を置いた。
色とりどりの光沢のある紙に包まれた丸いお菓子。頬張るのにちょうど良さそう。
(このアメみたいなお菓子、かわいいな。やっぱり、赤い羽男、女慣れしてる)
ルナがお菓子を眺めていると、レアンドロの手の平が彼女の頭にのる。
なでなでなで・・・・・・。
そして、ルナの額にキスをして中庭の空から帰ってしまった。
「レアンドロ様は、キザな方ですね。シエン」
「そうね、ミル」
ルナの座るソファの脇の扉が開き、双子女官が現れる。
「あの手に乗ってはいけません」
「餌付け作戦を続行中と捉えた方がいいでしょう」
「ルナ様、餌付けされてしまったのは仕方がないとして、レアンドロ様にルナ様の手から食べ物を与えてはなりません」
「分かってるって。シエン先生」
「餌付けをしあう行為が成立したら、貴女は太陽の神官レアンドロ様の妻です。ふふっ」
(ミル、嬉しそう)
ちらっと双子女官をソファから見上げる。
にまにま顔のミルが、シエンから目で叱られている。
双子女官にルイから、素朴な質問。
「というか、不法侵入じゃない?あれ」
双子女官シエンは、太陽の神官レアンドロの置いていった菓子に混ざる1本の結縄に気がつく。
そっとサイドテーブルから抜き取り、ポケットにしまった。




