016 巫女教育
「おはようございます。月の巫女様」
見事にハモった朝の挨拶。
顔が瓜二つの双子女官の声が部屋に響く。
ノックの後、勢いよく扉が開き、二人の女官がルナの寝室に入る。背丈の同じ双子女官がシンクロして動く。
爽やかな風がルナの部屋を通り抜ける。
石造りの部屋の壁は、鳥や植物の模様の装飾画や浅彫で飾られている。
高めの天井の寝室には、天蓋付きのベッドがあり、リネンの生成りの寝具はさらっとしていて肌触りが良い。
月の巫女の館の朝は早い。
夜明けの朝日と共に、いっせいに鳥たちが挨拶をする。
昨日の記憶が曖昧で、まだ寝ぼけているルナ。
「本日から、月の神官ルシオ様のご指示で、巫女教育を開始します」
「巫女教育?」
「はい。ルナ様には、この世界の一般常識やルール、風習、歴史などを幅広くお教えする様、申しつかっております」
「ん?」
「ルシオ様からは、これらを完璧に身につけるまで、外出禁止令が出ております」
「え、待って、初耳。マジで知らない」
とぼける、ルナ。
「昨夜、ルナ様のご了承は得たとルシオ様から伺っております」
「もしかして、『うんうん』と返事をしまくってたやつか。え、マジ、うざい」
「ルナ様、まずは言葉遣いからですね」
教育係の女官は、双子の女官。
「シエンです」
「ミルです」
二人が挨拶した後、恰幅のいい女官長と名乗る女性が、ベッドにまだ居るルナに説明する。
「シエンは一般教養、ミルは巫女教育の担当です」
昨日、付き添ってくれたのは、シエンのようだ。しっかり者のオーラがある。
「昨日はありがとうございます。シエン」
シエン、わずかに顔をしかめる。
「ルナ様、昨日お供した者は、ミルです」
ズバッと、女官長が言い切る。にこっとミルが頷く。
双子女官の顔を交互に見て、やはり二人の区別がつかないとルナは思った。
* * *
午後、月の巫女の館の応接の間が臨時教室となり、巫女教育スタート。
今日の先生は、シエン。隣でミルが見守る。
「ルナ様、よろしいですか」
「はい」
「まずは、今一番大事なことを伝えます」
ゴクっと唾を飲むルナ。
「太陽の神官レアンドロ様に、ぜえーーーたいに、餌付けをしてはなりません!」
「えづけ?」
(何を言っているんだろう。鳥じゃあるまいし)
ルナが首をかしげる。
「ルナ様のお手から、レアンドロ様の口に食べ物を運んではなりません」
「なんで?」
「それは、レアンドロ様の奥さんになっちゃうからです〜」
ミルが嬉しそうに、茶々をいれる。
「ミル、黙って」
「失礼しました」
ミルがしゅんとする。
「奥さんって、妻ってこと?え、なんで?マジ、分かんないだけど」
「それは言いかえると、『奥様とは伴侶ということでしょうか。どうして!理解できません。シエン先生』が正解の言い方です」
「え、めんどくさい」
「と、に、か、く!いいですか。今日は一般常識の基礎の基礎、ここで安全に生きるための基礎知識を叩き込みます!」
月の巫女ルナは、双子女官シエンから、みっちっり教育を受けた。




