015 無駄な叱責
「おまえは馬鹿か!」
太陽の神官レアンドロの宮殿から帰宅した夜、月の神官ルシオは、月の巫女ルナに開口一番、怒鳴ってしまった。
月の宮殿の自室に入るまでは、無表情でポーカーフェイスを保っていたが、自室に着いた途端、彼のイライラが頂点に達する。
「すまない」
怒鳴った直後、ルシオは我に返りルナに目を伏せて謝る。
「大きな声を出して、悪かった」
控えている召使い達が驚く。
普段は冷静沈着で感情を表に出さない彼が、怒鳴った挙句、明らかに憔悴している。そしてめったに謝らない主人が、年若い娘に詫びた。
ルシオの自室の居間のソファにルナを座らせる。
彼はルナの目の前に屈んで、彼女に目線を合わせる。
太陽の神官レアンドロから餌付けを受けたルナは満腹で眠い。
つい美味しくて、いつもよりたくさんの量を食した。
たった今、ルシオから怒鳴られたことも分かっているのかあやしい。
レアンドロの宮殿で嗅いだ香が、ルナの意識を朦朧とさせる。
ルナはふにゃふにゃしながら、左右に体を揺らす。
「反省していますか?ルナ」
「ご、ごめんーーなさい〜」
うとうとしながら、謝る。前後に上半身を揺らす。
「ルナ?・・・・・・起きてますか?」
「ーーごめんなさい」
早く寝たいので、とにかく謝る。なぜ謝る必要があるのか不明。
「ルシオさん、寝てもいい?」
ルシオが、ルナを怖い顔で見つめる。
「いいですか?ルナ」
「?」
「ここで暮らすからには、この社会の常識とルールを知ること」
「うん」
こくりと頷く。そのままうとうとするルナ。
「今の世界の常識を知るまでは、この宮殿から出ないこと」
「うん」
ルシオはルナの両頬をむにゅっと片手で抑え、上に向かせる。
ルナの半開きの目をルシオの青い目が覗き込む。
(深い海の色できれいな目)
ぼんやりと夢心地な中、ルシオの目に吸い込まれていく。
「歴史、風習、社会のルール、一般常識。全て君の住んでいた世界と違う」
「うんうん」
「特にレアンドロの奴・・・・・・じゃない、太陽の神官レアンドロに接触しないこと」
「え、なんでーー?むにゃむにゃ」
「ルナのためです」
「えーーまたメロン食べたーい」
ルナ、もぐもぐと口を動かす。目は閉じている。寝ぼけて、むにゃむにゃと「もう食べられない」などと言う。
「るーーなーー」
ルシオが彼女の肩をガクガクと前後に揺らす。
「ぽぽぽぽぽ」
揺れながらルナが言葉を発する。
「ぽ?」
「ぽ、ポテチ食べたい〜」
「確かに、俺も食べたいわ。それ。ポテトチップス」
ルシオが説教を忘れて、ルナに同意する。
「のり塩〜」
「俺、しお派。そうじゃなくて、いまはーー」
がくんとルナ、寝落ち。
「ああ・・・・・・」
深い溜息をつく。ルシオはルナの寝顔をしばらく眺める。
(もう少し危機感を持って欲しい)
自分が召喚してしまった責任と申し訳なさで、これからどうルナに接すればいいのかと悩む。
(これは巫女教育に時間がかかりそうだ)
月の神官ルシオは爆睡中のルナを抱き上げ、月の巫女の館に運んだ。




