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ルナの初恋 2026  作者: MOKO773
第一章 まねく

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14/22

014 餌付けの意味

「ねえねえ、聞いた?月の巫女様が、太陽の神官レアンドロ様の餌付けを受け入れたそうよ」


月の神殿の女官達が噂する。

「信じられない。それってーー」

月の神官ルシオの姿が見えると、女官達は解散。


静かな空気が神殿を包む。


早朝の神殿は空気が澄んでいて、ルシオは好きだ。

月の神官は天体観測が主な仕事であるため、夜勤が多い。


「月の巫女様は大丈夫なのですか?」


朝方、月の神殿にルシオを迎えに来たエリアス神官見習いが、師を見上げてそっと耳打ちする。


「ああ。醜聞は広まるだろうが、月の巫女の解任は免れた。太陽の神官レアンドロをルナに近づけないように」

「承りました」


ルシオは白い布を足で捌きながら、月のピラミッドを降りる。

小柄な体のエリアスは、よいしょと階段を一段ずつ降りる。


「くれぐれも、ルナからレアンドロに餌付け返しをしないように注意してくれ」

「はい」

「接触しないように、ルナの周囲を護ること」

「宮殿内に周知し、警備を強化します」


 * * *


月の神官は月を司り、天文学を研究する。

農耕に依存する都市のため、豊穣を祈る祭事が重要だ。種々の祭事を決めるための高度な数学と天文学の知識を操る。


多民族から成る都市のためか、階級での区別はあるが差別はほとんどない。

神官を頂点に、戦士、商人、職人、農民の順に階級がある。役割を分担している意味合いが強い。

神官には、農民からの報告が直接くることもある。水路が壊れたという土木的なものから、雨が例年よりも遅いという気象に至るまで、幅広い内容の報告が神殿に集まる。


月のピラミッドの階段から月の広場に降りると、顔馴染みの商人が月の神官ルシオに気さくに話しかけてきた。


「月の巫女さんはお元気かい?今度、月の巫女の館に、衣や装飾品を届けてもいいですかな?」

「いや、いらない」

「なら、珍しい異国の果物はどうですかい」

「不要」

「そうですか・・・・・・つれないねえ」


太陽の巫女が派手で浪費家のため、巫女はいい商売相手だと思われている。


「抹茶、宇治金時、白玉が欲しい。もどきでも良いが」

「なんだいそれ?聞いたことがない。・・・・・・食べ物かい?」

「無いならいい。ただ、できたら探しておいて欲しい。今度、特徴や材料を知らせるから宮殿に来て欲しい」


ルシオは商人と話し終わると、月の宮殿に足早に帰った。


太陽のピラミッドよりも月のピラミッドは小さいが、大きな祭事は月の神殿が主催する事が多い。

そのため、月のピラミッド前には、太陽の広場よりも広い月の広場がある。ここに祭事時には民が集う。

月の広場には、雨の神の巨大な像が立つ。


祭事には巫女が必要である。

豊穣を祈る際、月の巫女は、祭事前に月の神官から食を与えられる。

これを餌付けと呼び、お清め的な儀礼である。


餌付けにはもう一つの意味がある。

結婚式で新郎新婦が互いに食を与え合う餌付け。

太陽の神官レアンドロが月の巫女ルナにした餌付け行為は、求婚をすっ飛ばし、一方的に婚姻を結ぼうとしたことになる。


(起きたことは仕方がない)

寝室のベッドに横になりながら、月の神官ルシオは軽く息を吐く。


(めんどくさい。厄介ごとが一つ増えた)

危機一髪のところでルナを連れ帰ったので、良しとしたい。


太陽の神官レアンドロの宮殿から帰宅した日、ついルナに怒鳴ってしまった。

冷静沈着を保てなかった自分を悔やむルシオであった。


夜勤明けの月の神官ルシオは、うとうとと深い眠りに落ちた。

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