013 ルシオのお迎え
月の神官ルシオは、いま目の前で何を見せられているのか理解に苦しんだ。
月の巫女ルナが、太陽の神官レアンドロの膝の上でがっついている。
(ぱくぱく、ぱくぱくとよくもまあ。それにしてもよく食べるな)
ルナの食いっぷりに、ルシオが感心する。
大皿の肉料理やピラフ、どんぶりサイズのスープは、ほとんどが空になっていた。
今はぶどうやメロン、オレンジなどの果物をデザートに食している。
「美味しいだろう?」
普段は強面の〈赤い獅子〉と呼ばれるレアンドロが、優しい笑みを浮かべている。
いちゃいちゃをあえてルシオに見せつける。
レアンドロが、ルシオをちらりと見る。
ルシオは無表情を保つ。
「おや、遅いお迎えが来たようだ。久しぶり、ルシオ神官様」
皮肉を込めて、太陽の神官レアンドロがぶっきらぼうに言う。
「私どもの月の巫女が攫われたと聞き、貴殿の宮殿に伺った」
月の神官ルシオとして、威厳を失わないように落ち着いて振る舞う。
「攫ってはいない。太陽の巫女とご対面頂いただけだ」
果物に自ら手を伸ばすルナの手を優しく止め、レアンドロはぶどうを彼女の口に運ぶ。
「見ての通り、餌付け完了だ」
ルシオに向き直ったレアンドロは、勝ち誇った表情で、意地悪く笑う。
「帰りましょう。ルナ」
ルシオはルナに近づき、レアンドロから彼女を引き剥がそうと手を伸ばす。
「ルナ」
もう一度、呼びかける。
自信があるのか、レアンドロはルシオを邪魔しない。
メロンを小さく切り分け、もぐもぐが止まらないルナの口に運ぶ。
「ルナ、私の家にかき氷を用意します」
ぴくりとルナが反応する。
「かき氷には、抹茶シロップがかかっているかもしれない」
ルナ、ルシオを見上げる。
もうひと推し。
「宇治金時入り・・・・・・かもしれない」
彼女の目が輝く。
「何なら、白玉もどきも付けます」
ルナが、がばっとルシオに飛びつく。
(この香は・・・・・・ルナの顔がうつろだ)
ルシオが嗅いだことのある香の匂いがする。意識が混濁する類の香で、神殿での儀礼でも使う。
レアンドロやルシオは普段から嗅ぎ慣れており、意識を保つことができる。
(とにかく、ここを早く離れないと)
満腹でふにゃふにゃしているルナをルシオが抱える。
ルナからレアンドロに餌付けした形跡がないことを、ルシオは食卓の状況から確認する。
「月の巫女が世話になった。失礼する」
こうしてルシオのお迎えで、月の巫女ルナは帰宅した。




