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小さくも大いなる

どたばたと後始末が済み、ようやく一息ついたところ。メイドが夕飯の準備をし始める様子を眺めつつ配膳を待っていたら、窓からするりと小さな影が飛び込んできた。

窓の外から何か投げつけてきたのかとラディウスが着弾前に払いのけようとして、しかし影は軽やかにラディウスの手をすり抜けた。いったん上へと飛び上がり、天井に吊り下がるシャンデリアを軽く一周した影は、羽ばたきの音とともにロヴィーナの肩に止まった。


「聞いたわ! 聞いたわよ! わたしの可愛いロヴィーナがまた殺されかけたって!」


ぴぃぴぃと鳴くように人語を喋るのは小さな鳥だ。ロヴィーナの肩に止まるのにちょうどいい大きさの、小鳥と呼ぶにはやや大ぶりの。

羽の配色は駒鳥と同じ。しかし駒鳥にしては何倍も大きい。大型の猛禽類と同じほどのサイズの鳥は、どこに声帯があるのか、流暢に人語を発する。

そう、これこそが駒鳥神。正確には、その本体より分割された分身だ。本体はもっとずっと大きく、これはその羽毛一枚程度を材料にして作られた。屋敷の一部屋におさまらないほどの体躯の本体が直接出向くには難があるため、こうして分身を遣わせる。


これが噂の駒鳥神。小さくてもその存在感は確かに人ならざるものだ。人間などでは太刀打ちできない『おおきなもの』だ。

初めて目にする存在に唖然とし、しかし直後に礼儀を思い出して慌ててその場に膝をつく。

その慌ただしい動きを視界の端に捉え、ぴぃと鳴くように駒鳥神はラディウスを見た。


「あら! あらあらあら!! あなたが新しい護衛ね?」


ラディウスと申しますと名乗るより先、ロヴィーナの肩から駒鳥神が飛び立つ。ラディウスの間近で空中静止し、ぱたぱたと翼の音よりも騒がしい声で次の言葉をまくし立てる。


「まぁ、まぁ!! 本当に来たなんて!! 恥知らずにもほどがあるわ! あの兄あって弟ありね!」

「ちょ……それは……!!」


あまりにも直球な罵倒にロヴィーナが慌てる。しかしラディウスは鉄面皮を保ったまま叩頭の姿勢を崩さない。

それをいいことに、ぴぃぴぃと駒鳥神は続きをさえずる。


「あなたの兄がバカなことをしたせいで、わたしはとっても大変だったのよ!! あなたの兄が、あの子と心中なんかしたせいで!」


それはそれは、とても大変だった。いくら何回でも蘇らせられるからといっても、こうも頻繁に死なれては。

息を吹き返させるのもただじゃない。神と呼ばれていようが相応に苦労する。それなのにあの兄ときたらロヴィーナと心中なんてして。


要約するとそんなことを言い、憤慨の表現のように荒々しく羽ばたく。


「本当にバカよね。わたしの可愛いロヴィーナと一緒に死のうなんて考えるのも愚かだけど! 心中なんてしたって、わたしが可愛いロヴィーナを生き返らせるんだから意味ないのに!」

「あぁ…………もう…………」


ぴぃぴぃ鳴く駒鳥神の言葉にロヴィーナは思わず頭を押さえた。この馬鹿鳥、ひとが観測気球を飛ばしながら様子見していた『あのこと』に思いっきり突っ込みやがって。

鳥だからか、人間の心の機微やデリカシーなどというものは無いようだ。あぁもう、とロヴィーナは遠い目をすることしかできない。


そう。ラドランは死んだ。自殺だ。正確には、ロヴィーナも巻き込んだ心中。

それはロヴィーナが5回目の死と蘇生を迎えた少し後のこと。ラドランは思い詰めた末にロヴィーナをその手で刺し殺した。そして自分で喉を貫き自害した。彼の部屋に残っていた手記には、度重なる殺害を許してしまったことへの自責と、死んでも何度も生き返ることへの絶望が綴られていた。愛する女を守れもしない、彼女は死んでも生き返る、なら俺は要らないじゃないか、と。

信じられぬ生還続き、騎士の心情『我要らぬ』。心中騎士の心中お察し致します。子供たちが無邪気に歌う歌にも綴られているように。


騎士が護衛対象を守れないどころか、その対象を巻き込んで心中するなど言語道断。ゆえにラドランは汚名を被り、葬儀は最低限で墓も粗末なものだ。彼の家名には大いに傷がついた。


それで護衛対象も一緒に死ねたらまだ悲劇的な美談として成立する部分はあったかもしれない。しかし心中の相手は駒鳥姫ロヴィーナ。死んでも生き返る。彼が自分の存在意義に絶望した理由がそうであるように。

愛する駒鳥姫の死を感じ取った神が彼女だけを蘇生させ、ロヴィーナだけは無傷で生還。ただラドランだけがみっともなく汚名とともに死んだ。


それが、ロヴィーナとラドランの間にあった『あのこと』だ。そのことがあったから、彼の弟が新たな護衛として着任すると聞いた時は耳を疑ったし、実際にラディウスと対面して非常に気まずい気分になったのに。

それでも気まずいままではよくないと、踏み込んでは反応を窺って、様子を探りつつ距離をはかっていこうとしていたのに。そんな探り探りの最中だったのにこの馬鹿鳥は。そんな機微など無視してずかずかと。

焼き鳥にしてやろうか。あぁだめだ、これは分身だから傷つかない。切った手応えはあるがそのダメージは駒鳥神本体にいかない。殴ったところで無駄なのだ。


「ほんとうに! 本当にもうあんなことしないでよ! 兄と同じ真似をしたら一族郎党まとめてぶち殺しちゃうから!」


ロヴィーナが遠い目をするその間にも、駒鳥神はデリカシーを置き去りにして好き勝手に喚き立てる。

はい、はい、そうですね。兄に代わってお詫び申し上げます、と叩頭するラディウスの表情は相変わらず鉄面皮のままだった。

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