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鉄面皮を剥がしてみれば

ピーチクパーチクとはまさにこのこと。ぴぃぴぃと鳴き喚く駒鳥神はやがて満足したのか、ふんっと鼻を鳴らして言葉の濁流を切り上げた。


「いいこと!? またやったら許さないから!」


それだけを言い残し、ぱたぱたとどこかへ飛び去っていく。

いったいなんだったのか。後にはロヴィーナとラディウスだけが残された。


「ごめんなさい、あのノンデリ鳥が……」

「いえ」


いや、まぁ自分も反応を見るために切り込んだりしていたわけだが。それにしても駒鳥神の言い方ってば。あまりにもノンデリカシー。

はぁ、と溜息を吐いたロヴィーナは肩を竦める。対するラディウスは特に気分を害したふうもなく、いつもの鉄面皮のまま首を振った。


「むしろ正面から糾弾していただいて感謝しています。そろそろこの件についても正面から話すべきかと思っていたところですので」

「む」


確かに。こうして爆弾を投げつけるようなことをして反応を見たりするよりは建設的か。

夕飯前の時間で話すにしては重い話だが仕方ない。今を逃したら変にぎこちないままだったろう。

よしわかったと頷いて、ロヴィーナはテーブルにつく。座れと促したら意外にもラディウスは素直に正面に腰を下ろした。


改めて。ラドランとロヴィーナの間にあった話を整理しよう。

5回目の死と蘇生を経た後のことだ。彼はロヴィーナを巻き込んで心中した。ロヴィーナを刺してからの自害だった。

何故、という理由も知っている。彼はロヴィーナのことを想っていた。殺害と蘇生の繰り返しが始まるよりももっと前から。革新派が目立ち始め、政治の場において派閥を作り出した頃からその想いは在った。だからこそ神を排除し駒鳥姫を追いやる革新派の動きに過剰に反発していたのだ。

さて。そんなラドランだが、繰り返されるロヴィーナの死と蘇生によって心が壊れた。5回も死を許してしまったことで、護衛としての誇りは地の底。愛する女が死ぬところを何度も見てしまった絶望。しかし次の瞬間にはロヴィーナは何事もなかったかのように神の権能で蘇る。

もはや自分という存在は不要だと。護衛の騎士としても、ひとりの女を想う男としても。もう自分は要らないと断じ自害を決意、そして心中を決行した。

心中は成功した。だが駒鳥神によってロヴィーナだけが生き返った。ラドランに残されたのは、騎士としてやってはならぬことをしたという汚名だけ。愛する女と一緒に死ねたという喜びなど与えられず。


そして次の護衛が決まらないまま日が過ぎ、その間に6回目から10回目の死と蘇生を味わわされた。その後ようやく決まった引き継ぎは、なんとラドランの弟。つまりラディウス・ガルドだ。

まったく信じられなかった。ラドランがあんなことをして、その弟が引き継ぎをしたなんて。駒鳥神は厚顔無恥と罵ったが、ロヴィーナだって同じような感想を抱いた。だが本人のあまりにも強い希望なのだというのだから断れない。

保守派が集まり、駒鳥姫の新たな護衛を決める会議の最中。兄の汚名を雪ぐためにも是非に、と彼は土下座までしたという。ここで騎士の役を拝せぬのならば、もはやガルド家ごと滅することでしかラドラン・ガルドの汚名は払拭できないとまで言った。自分が選ばれないのなら一族郎党まとめて死ぬと言ったのだ。

そうして彼は護衛の役目を無事得たのである。そのあたりの話はロヴィーナも人づてでしか聞いていない。しかしラディウスの態度からするにきっと合っているだろう。彼の性格ならやりかねない。


「……なんで、そこまでして私の護衛になろうって?」


ついつい、疑問を口にする。そこまでする理由とは。

ラドランが汚名を刻んでから今日まで、きっとラディウスは散々な揶揄や罵倒に遭ってきただろう。『あの』ラドランの弟めと。

そんな罵倒を彼は鉄面皮で受け流してきたのだろう。そうですね、兄がとんだ真似をして申し訳ありません、と謝罪まで口にして。場合によっては殴られたりしていたかもしれない。

それでも折れずにこの役目にしがみついている。保守派の議会に乗り込んで土下座までして。一家の命さえ人質にして。

まるでそれは兄の汚名を雪ぐためだけに一生を注ぐような。そんな人生の使い方をしている。


どうしてそこまでするのか。噂話が届かないような田舎に蟄居して慎ましく暮らすことだってできたはず。というより普通はそうするだろう。被った汚名に泣きながら没落していくだけの運命だ。それなのに逃げることなく、その汚名を返上すべく立ち向かうなど。人生を潰すほどの熱量で。


それはどうしてだ。ただの責任感にしては重すぎる。兄のやらかしを弟が返上しますなんて単純な話ではこんな熱量は持てない。

そこに何がある。何のためにここにいる。しがみつく理由は何だ。


ロヴィーナが問いかける。質問というよりもはや詰問だ。

問われ、ラディウスは少しだけ逡巡するふうをみせた。自分の腹の底を明かすかどうか、信用に値するかどうかを迷うように。当たり障りない返答でこのやり取りを終わらせるか、それとも底を見せてさらに踏み込んだ話をするか。珍しく鉄面皮が揺れる。


「言って」


でなければお前の護衛の役目はここで終了。あとは一族郎党巻き込んで自害して兄の汚名を雪げばいい。会議の中でそう詰め寄ったように。

強く圧をかければ、ラディウスが僅かに目を伏せる。息を吸い、吐いて、そしてロヴィーナを正面から見据える。


「…………復讐のためと言ったら、笑いますか」


鉄面皮の下の灼熱を覗かせ、ラディウスがそう言い放った。

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