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か細い駒鳥

「あなたも知っていると思うけど」


この国の政治は2つに割れている。従来通りに駒鳥神を掲げ崇める保守派と、神を廃しようという革新派と。

保守派を構成するのは昔から政治を担ってきた貴族たち。対して、革新派のほとんどは技術屋や科学者だ。彼らは近年発展してきた科学技術を担い、そして日々開発している。

そのため、少数派だから、驕った異端の考えだからと革新派を切り捨てるわけにはいかない。彼らを切り捨ててしまったら技術の発展は止まるし、今の文明も維持できない。ミシンができた今、今更手縫いには戻れないように。蒸気列車がある今、もう徒歩で旅はできないように。肥料無しでは食料は自給できないし、天候の予測だって。そこを神に頼れば文明はたちまち奇跡頼りに立ち戻る。

生活にとってなくてはならない人間たちが、困ったことに革新派の中核なのだ。自分たちが技術を生み科学を発展させてきた自信があるからこそ、神を廃せるんじゃないかという理論の飛躍を起こす。


「それがこの状態……ってわけ」


そんなせめぎ合いが政治の場では繰り広げられているらしい。らしい、というのは、ロヴィーナはその流れに押し流される側だからだ。

政治の場に参加したことなど一切ない。駒鳥姫はただそこに存在すればいいという権威だけの存在であることが裏目に出た。もう少し意地を出して飛び込んでいればこの流れも変わったかもしれない。


話が逸れた。せめぎ合いの結果、ロヴィーナは非常に立場が弱い。革新派からは当然軽視されるし、保守派としても神輿は軽いほうがいいので権力を持たせない。完全にお飾りだ。それはつまり、翻せば保守派からすらも軽んじられているというわけで。


「行儀見習いのメイドくらいしか世話をしてくれる人がいないってわけ」


屋敷の使用人は最低限。それも行儀見習いだとか、格の低いものばかり。大人たちに並んで働けるようになった子供上がりの成人が、まず最初に社会経験を積むための訓練場のような。

以前のように、最高級の使用人たちがずらりと並ぶ光景はもうない。権威だけのお飾りの姫に仕えるより他の主人のほうがいいと、次々と出ていってしまった。彼らを引き止められるほどの給与も、権威だけゆえに国庫からの支援のみでやりくりしないといけない駒鳥姫には出すことができず。ロヴィーナが屋敷に召し上げられたばかりの頃から世話をしてくれたメイド長ですら老齢を理由に辞めてしまった。

国の頂点である神に愛された駒鳥姫の屋敷はもう、そのへんの下級貴族の屋敷とほぼ変わらない。いや、新興の成金貴族のほうが金があるぶん上かもしれない。そんなところまで落ちぶれてしまった。


「保守派も、安全な場所で生きてさえいればその暮らしが贅沢でなくてもいいって思ってるのよ」


駒鳥姫という存在だけが神輿としてあればいいと。だからコストもかけない。最低限、令嬢として暮らせるだけの予算を割くだけ。

確かにそれはそうなのだけど。居さえすればいいので金銀宝石は必要ないという考えは非常に合理的なのだけど。こうも露骨だと溜息を吐きたくなる。


まぁ、そんな弱い立場にいるのが現状だ。

そうだと知っているだろうか、と前提知識を確認するために問いかける。はい、相違ありません、とラディウスが頷いた。


「どうであろうとも、貴女様をお守りします。それが自分の役目ですから」


兄であるラドランがとんでもない汚名を刻み、その弟として払拭せねばならないことも含め。

駒鳥姫の立場が弱かろうが、兄の汚名ゆえに自身の家名が地の底であろうが。

きっぱりと言いきったラディウスの声は覚悟が決まりきっていて、質問をぶつけた側が怯んでしまいそうな気迫に満ちていた。


「そう……意見は翻らないのね?」

「翻る理由がどこにあるでしょうか?」


駒鳥姫の立場の弱さも、兄の汚名も、役目を返上する理由にはならないと。

そこまで言い切られたら何度も覚悟を確かめるのは無粋だ。ロヴィーナとしては、よろしく、と言うしかない。


「ところで、何か聞いておきたいことは?」

「ひとつだけ」

「何?」


言ってごらんなさい。ロヴィーナが促す。

質問の許可を得て、ラディウスは真っ直ぐロヴィーナに視線を据えて口を開いた。


「貴女は本当に死を繰り返しているのですか?」


誰が駒鳥殺したの。そう問う前に確かめよう。駒鳥は本当に死んだのか?

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