事後整理の思考整理
「あと、ロヴィはどうしたの?」
物見塔に頭を突っ込んでいたあの可愛らしい大きく丸い羽毛の尻を思い浮かべながら問う。あれから駒鳥神はどうしたのだろう。
わたしの駒鳥姫を引き裂いたこと、その場にククルスがいたこと。きっと激昂は凄まじかったろう。人間の法など知らない、今すぐここで殺すとか言い出していたはずだ。それをどう収めたのだろう。あれが人間の言うことなど素直に聞くと思えないが。駒鳥姫であるロヴィーナの言うことだってまともに聞き入れやしないのに。
「駒鳥神様ですか。あの方は……」
受けた数多くの報告の中から引き出して整理し直したのだろう沈黙を一瞬挟んだラディウスが淡々と返す。
命令通り、屋敷の全員を捕縛に走っていた兵たちは物見塔の中に踏み入り、螺旋階段を登って頂上へ。そこで、恐れおののいているフリューゲル卿と、逃げるタイミングを逸して立ち尽くしている行儀見習いのメイドと、彼らに激昂し羽毛を逆立てている駒鳥神に遭遇した。
今まさに、彼らを殺そうと駒鳥神が嘴を開いたタイミングだった。そこに乱入するとはお前たちも死にたいのかと怒る駒鳥神へ、跪いた兵たちは命令なのでと繰り返してなんとか人間側の事情を飲み込ませたそう。捕縛し、裁判にかけて法に照らし合わせて処罰するのでここで手討ちはどうか、と。
「それで聞き入れたっていうの? あの馬鹿鳥が?」
ロヴィーナの言うことならともかく、ただの兵の言葉をか。驚くロヴィーナにラディウスが頷いた。
「はい。駒鳥神様も、それならば、と了解して飛び立ったそうです」
兵の報告を聞くラディウス自身も意外だったらしい。鉄面皮を保ったままであるが、どこか怪訝さを抱いている雰囲気がする。
だが事実そうなのだ。すみませんこっちも上司からの命令なんでこいつらを捕まえないといけないんですよと言ったら引き下がったのだとか。じゃぁしっかり捕まえておきなさい、逃がしたら承知しないと言い残して飛び立った。どこへ行ったかは知らない。
「ロヴィがねぇ……」
あれがそんな申し出で引き下がるとは思えないが。信じられないが兵がそう言い、ラディウスがそう報告するのだからそうなのだろう。
まぁ、人間のやり方に譲ってくれるというならいいことだ。ここで、知ったことかと怒りに任せてククルスを引き裂けば、その後が色々面倒だった。無実の人間を殺すとは、と批判が巻き上がっていただろう。その批判をおさめるためにカッコウがどうこうと真実をつまびらかにしなければいけなかったし、外敵という未知の存在を知ってこの国に動揺が走っていたはず。一度外敵が来たのだ、次も来ないとは限らない。そうした場合にどうするのかと、また新たに派閥が生まれて入り組んで政治が混乱する。その波が避けられたのはいい。
さて。外来種への対応方針については今後。話が逸れた。今はククルスを確実に処分し、巣に平和をもたらすことに注力しないといけない。ディアデム卿の言う通り、フリューゲル卿を主犯として定め、側近であるという理由でククルスを巻き込むのが一番だろう。それならばククルスが側近と言えるほど近しかったかどうかが焦点だ。そこについては今、ディアデム卿が頭を捻っている最中。
思考をまとめ、ともかく、と切り替える。駒鳥神に引っ掻き回されないのは安心だ。人間の機微など知ったことではない神に状況をかき乱されずに事を進められるのは嬉しい。
「さて……」
あとは数日中に、ククルスを確実に処分できるようにする。口実も名目も何でも使って。
捕まえればこっちのもの、後でどうでもでっち上げられるとばかりにロヴィーナを替え玉疑惑で車裂きにしたのはあちら。それならば、その論法をこちらも適用していいはず。でっち上げててでも奴をここで始末する。
替え玉疑惑だってククルスが煽ったことだろう。ククルスが排除されれば自然におさまるはずだ。
えぇと事を丸めるためにはあれをこうして、それをああして、あれは明かしてこれは黙って。云々。
そんなことを一つずつ考え、時々ラディウスに確認しつつロヴィーナが脳内で整理していると。
「し、失礼します! 至急、ご報告したいことが!!」
ばたん、と扉を開けて伝令兵の一人が駆け込んできた。




