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その後の顛末

屋敷へ戻り、ひとまずの帰還を使用人たちに告げる。帰還を泣いて喜ぶメイドたちに代わる代わる抱きつかれながら、ロヴィーナは着替えと朝食を。その間、ラディウスは諸々の報告と連絡をすべく外出を。

やっと一息ついて落ち着いた頃にはもう朝の時間をだいぶ過ぎていた。時刻としてはまだ朝だが、もう丸一日活動したかのような疲労がある。はぁ、とロヴィーナが人知れず溜息をついていると、失礼しますとラディウスが入室してきた。諸々の報告と連絡がまとまったのだろう。


「おかえりなさい」

「ただいま戻りました。それで、状況ですが」


ラディウス曰く。フリューゲル卿をはじめとした屋敷の全員を捕縛した。今は全員牢屋にぶちこまれている。

フリューゲル卿は屋敷の使用人の勝手な行動だと主張し、保身を口にしているそう。その話は取り調べの時間に聞くから牢の中で喚くなと牢番に怒鳴られているらしい。


「……それで、口裏合わせなのですが」

「口裏合わせ?」

「はい」


今後、事情や経緯を説明せねばならない場面があるだろう。その時に、カッコウだなんだと詳細に真実をつまびらかにしては動揺が大きくなる。ある程度はかいつまんで省略し、語らずの部分を作らねばならない。口裏合わせとはそのことだ。何を言い、何を言わないか。あるいは真実を多少歪曲する時にどう語るか。

これはディアデム卿の入れ知恵ですが、とラディウスが前置きする。


「事の主犯はわからない、ということにしようかと」


真相は、ククルスの囁きを発端にフリューゲル卿が暴走した結果のこと。しかしそこを歪め、事の主犯はわからないということにする。

状況証拠的にフリューゲル卿ではあるが、明確な物的証拠があるわけでもなし。

なので、こういうことにする。あまりにも急な出来事なので主犯が特定できず、犯人だけを捕縛することができない。なので、疑わしきは罰せよということで屋敷の全員を捕縛するに至った、と。事の委細がわかれば無実の者は解放するが、それまでは全員牢屋行きにしたと。


「全員」

「えぇ。全員です。屋敷の使用人、それこそ牛馬に至るまで」


この事態など知らず寝ていた使用人たちも。たまたま夜明けに物資を運び込みにきた荷運びの平民まで。屋敷で飼っている犬すらも。問答無用で捕縛した。だって、主犯がわからないので。


「事情や経緯を聞かれたらそのように説明してください」


そういうことにしたのは、ククルスを捕らえるためだ。『何もしていない』からこそ、フリューゲル卿を主犯として事を進めては縄からすり抜けてしまう。罪なき彼女を拘束するには、疑わしきは罰するという問答無用さで巻き込むしかなかった。

ここまで巧妙に逃げてきたククルスをついに捕まえるための口実がこの口裏合わせだ。


「えぇ。わかったわ。……ところで、肝心のあの子は?」


口裏合わせは了解した。問われたらそのように説明しよう。なに、こちらだって車裂きで殺されたのだ。それくらい過激で強引な手段で反撃しても文句を言われる筋合いはないと言い返してやろう。


それで、肝心のククルス本人は捕らえたのだろうか。主犯がわからないという建前まででっち上げて、投げ込んだ網の中にククルスは引っかかったのか。

ロヴィーナが問えば、はい、とラディウスが静かに頷いた。私たちはただ屋敷で働いているだけの善良なメイドですと泣く使用人たちの中に、しっかりと。この子は働き者なんですよ、なにか悪いことをするような子じゃないと老齢のメイドが庇っていたが、『主犯不明により問答無用で全員』の口実の名のもとに檻に放り込んだ。

檻の中のククルスは特に抵抗はせず、大人しくしているらしい。暴れたり脱走を企てたりするよりは釈放を待つつもりだろう。表向き、彼女は『何もしていない』のだから他のメイドたちと同じく数日後には釈放される。


――と、ククルスは思っているだろう。


せっかく捕らえたのだ。逃がすわけがない。奴はここで討つ。今はその案を練っているところ。何かしらの罪をあげつらってでも処刑台に送る。檻に入れたカッコウをみすみす逃がす馬鹿なことはしない。

何かしら挙げられる罪はないかと、ディアデム卿が頭をひねっている。主犯をフリューゲル卿とし、その側近としてまとめて処刑するのが最も現実的であるのでその路線でいく見立てであるそうな。

そちらについては、事実関係を調査するという名目の数日の間にやればいい話だ。今すぐではない。


「異論はないでしょう?」

「えぇ」


そこまで道筋ができているなら結構。ラディウスはしっかりと私のやってほしいことに沿って行動してくれたようだ、とロヴィーナは安心したように頷いた。できていなかったら同じことを今から指示していただろう。

事が落ち着いた後にディアデム卿には礼を言っておかねばならないな、と思いつつ、ふむ、と思考を回す。夢見る将来図が重ならないのが惜しいほどの有能さだ。

そんなことを思いつつも報告を聞く。革新派の筆頭がこんなに有能なのに保守派の連中はどうかというと、彼らは彼らで緊急招集に応じて手勢を寄越すという役目をきっちり果たした。彼らがきちんと働かなければ屋敷の全員を捕縛するなんてことはできなかったし、ククルスを檻の中に放り込めなかった。今も牢番や取り調べを行ってくれている。


そう。我らが臣民はこんなに優秀なのだ。思想は違えど国を思っている。それなのに派閥を作って対立し、政治は混乱してしまっている。

それを仕組んだのは忌々しいカッコウ。何としても奴を排除し、この国に秩序を取り戻さないと。巣を侵させるわけにはいかない。改めて決意を固めた。

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