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幕間小話 カッコウの申し子

それはいつかの日の話。


小さくて弱いコキュ。あなたに仕事を与えましょう。


ある日カッコウ神はそう言った。巣の中で最も小さくて弱いコキュに仕事を与えると。

仕事とは、カッコウとして他の巣を乗っ取ること以外に他ならない。他の鳥神の巣に侵入し、その神性を削り落として追い落とし、空席になった頂点にカッコウ神を招いて巣の地位を塗り替える。

カッコウは托卵する。そういう生き物であると同様に。


「恐れながら質問します。あの小さくて弱いコキュにですか? この賢いコキュや老獪なコキュにではなく?」


賢いコキュが問い、老獪なコキュが同意するように頷いた。小さくて弱いコキュに仕事が務まるはずがないと狡猾なコキュもまた意見を述べた。

コキュとはカッコウ神の眷属の名をいう。眷属になる際に本来の名を奪われ、コキュという名を与えられる。それでは同名同士で苦労するので、装飾をつけて呼び分けるしきたりだ。そうして末席の眷属につけられた呼び名は、小さくて弱いコキュだ。その通り、眷属の中で最も小さくて弱い。眷属になってから日が浅いわけでもなく、時間としてはそれなりに経っているというのに未だに神の力に慣れず、十全に振るえない。新入りだから仕方ないという言い訳も使えないほど日が経っているのにいっこうに馴染めない小さくて弱いコキュ。哀れなコキュと名を改めようかと揶揄されるほどだというのに。

そんな小さくて弱いコキュに仕事とな。賢いコキュや老獪なコキュ、狡猾なコキュの手は空いている。やれと言われたら鮮やかな手つきで仕事を完遂するだろう。実際に実績もある。豪華絢爛な色彩で飾られた孔雀の巣をカッコウの灰色に塗り潰した時のことは武勇伝としてコキュたちの間でいつまでも語り継がれている。それなのに、わざわざ。

小さくて弱いコキュでは絶対に失敗するだろう。まだこの小さくて弱いコキュは仕事をしたことがない。練習ですらまともにこなせないのだから。だというのに、練習どころか本番なんて。


「あぁ。他のコキュをつけるのですね。小さくて弱いコキュに現地で学習させようということでしょう?」


実際に見て学ぶこともある。練習を積み重ねるよりも本番を目の当たりにしたほうが伸びる場合もあるだろう。

カッコウ神が考えているのはそういうことだ。ははぁ、賢いコキュはわかります。うんうんと頷く賢いコキュに、いいえとカッコウ神は首を振った。小さくて弱いコキュひとりで仕事をなすのだと。


「それは……あぁ! あぁ! わかりました、老獪なコキュは理解しました!」


しわがれた声で老獪なコキュが言う。結論から言おう。つまりこれはていのいい口減らしだ。巣の乗っ取りに失敗すれば外敵として巣の中で殺されるだろう。托卵がばれたら巣から追い落とされるのは巣の雛鳥でなくカッコウの雛。つまりはそういうことだ。小さくて弱いというだけでは処分するわけにもいかないから、わざと失敗するような仕事に放り込んでその先で処分してもらおうというわけだ。

失敗前提。成程そういうことか。もしも我々の想定を裏切って成功すればよし。成功したことで才能が開花して、ここからどんどん実績を積められれば万々歳。まぁそううまい話はないだろうが。


カッコウ神は何も言わない。だがその沈黙が何よりの答えだった。母様は意地が悪いねと無邪気なコキュが笑った。悪いという単語だけ拾ったのか、かかさまをわるくいうな、と幼稚なコキュが頬を膨らました。喧嘩が起きる前に優しいコキュが仲裁する。

そんな光景をよそに、小さくて弱いコキュは神でも母でもある存在の決定に頷いた。


「わかりました。小さくて弱いコキュは決定に従います」

「では小さくて弱いコキュ。お前はククルスと名乗りなさい」


これはコキュが外の巣で活動するための名だ。コキュではカッコウ神のものとわかってしまう。正体が見抜かれればその目的も露呈してしまう。だから正体を隠すために偽名を用いる。それが仕事をする際の決まりだ。もちろん巣に戻れば名はコキュに戻る。ククルスは仕事中限定の偽名なので。

『郭公』がカッコウともホトトギスとも読むように、偽名にはホトトギスを借用する。ホトトギスは美しい夏告鳥。外部からの侵入者だと気付かれることがあっても、それは巣の繁栄を謳いに来た旅行者だと言い訳することができる。そうして正体をごまかしつつ、目的を成しなさい。神であり母である上位者はそう言った。


「小さくて弱いククルス。わかりましたね?」

「はい。小さくて弱いククルスは励んでまいります」

「えぇ。せいぜい頑張りなさい」


死ぬ時はこちらに迷惑をかけないように。そんな響きのある見送りだった。

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