夜明け前が一番暗い
「出ろ」
牢番が呼んだ。ということは、もう処刑の準備ができたのか。牢屋から引きずり出され、そのまま、屋敷の裏の森へと連れ出される。森の中央を切り開いて拓いた処刑場へと連行されていく。
さて何刑だろうか。剣での断頭か火刑か。森の中へと引きずられる道すがら、もはや諦めからの余裕でそんなことを考える。どれにしたって苦痛には変わりはないのだが。
あぁでも火刑は焼ける苦しみが長く続くし嫌だ。断頭刑のほうが痛みは一瞬で済む。できれば断頭だと嬉しいなぁと思いつつ、急ごしらえの処刑場へ。木を切って低木や雑草を打ち払って、軽く地面を均しただけの簡素なものだ。夜明け前にすべてを終わらせようと人目を隠すために作ったのだろう。きちんとした正規の処刑場に連れて行かないのは、この処刑が不当であることの何よりの証拠だ。
それだけにフリューゲル卿の本気が見て取れる。保守派だって馬鹿じゃない。フリューゲル卿が、もう終わったことだ、後の祭りだなんだと言い通そうとしたってはいそうですかと頷くわけがない。処刑後に証拠を捏造したってそれを見抜いて棄却する。こんなやり方、保守派だけでなく革新派だって同意しない。政治は荒れに荒れる。
それでもなお、やろうとする。それだけ本気なのだ。後のことは後のことと切り分け、今目の前にいる駒鳥姫を排除することに注力しようとしている。神の加護という名の支配を受けたままではいけない、今すぐに脱却すべきだと。そのためなら手段は問わないし波乱が起きても構わないと。
うーん、過激派というだけはある。そんなことを思いつつ、連れ出された刑場を見回す。薪が集められていないので火刑ではないだろう。この速度なのだし、そもそも薪を集める時間すら用意しなかったのかもしれない。
では断頭か。それなら首を断ち切れる腕前の剣士一人だけを用意すればいい。さて私の首を斬る度胸のあるやつは誰だと見渡してみても、それらしい人夫の姿はない。
代わりにいるのは4頭の牛馬。まさか。牛馬4頭でできる処刑方法の心当たりに思い至り、ロヴィーナはひくりと喉を鳴らした。
「車裂き……!?」
さすがにそれは。首を斬る度胸と腕前の剣士も用意しなかったのか。探して呼び出すだけの時間すらフリューゲル卿は惜しんだのか。
いや、時間だけじゃない。口止めの手間も含めてか。人間を口止めするのは簡単ではないが、牛馬なら何も語らないし、最悪捌いて肉として食ってしまえばいい。確かにそれはそうなんだけど。冗談じゃない。諦めと現実逃避からきていた妙な冷静さも焦燥に消し飛ぶ。
「ちょっと……冗談じゃない……!!」
車裂きなんて。罪人の処刑方法の中で一番を争う残酷なものじゃないか。こんなの国家反逆罪でもなければ執り行われない。
あぁそうか。駒鳥姫になりすますなど本来の駒鳥姫や駒鳥神の権力を侵害する、つまりは国家反逆罪も同然だと。後で辻褄を合わせる時に言い訳が通るようにしているのか。目の前のことしか見えていない即断即決の思考でもそのくらいは手を回すのか。あるいはこれもククルスの仕込みなのか。こうやれば言い訳を通すことができますよね、なんて。
いやもうそんなことを思考している暇すらない。抵抗するなと地面に引き倒されて手足に縄がかけられる。それが四方に配置された牛馬の体へと繋がれていく。
ラディウスは間に合わない。ここから巻き返せるのは神の奇跡くらいだが、駒鳥神はまだ事態に気づいていない。ロヴィーナの逼迫した感情を感じ取っているかもしれないが、それでも何が起きようとしているのかを把握してこの場所を突き止めるまではいかない。
人間も、神すらも間に合わない。四方の牛馬に鞭が入る。不機嫌そうに鳴き声をあげ、鞭打たれるままに脚を進めていく。ロヴィーナの手足が突っ張った。
「あ、ぁ……!!」




