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ククルス・ロストネスト

「こいつがカッコウよ!」


ぴぃと駒鳥神が叫ぶ。糾弾の声に弾かれ、信じられないものを見るようにロヴィーナとラディウスが彼女に視線を向ける。

ククルス・ロストネスト。ここまで仕えてきてくれた行儀見習いのメイドがまさかカッコウだなんて。


「あ、バレちゃいました?」


1神2人の視線を受け、ククルスは顔を上げる。ついさっきまで浮かべていた不安げな顔も、雑談を交わす楽しげな表情もすべて脱ぎ捨てて。そそっかしい見習い使用人の偽装を剥がされても、なお怯むことなく。


「はい。私は『外来種』ですよ」


それでは改めて自己紹介を。余裕ぶった笑みさえ浮かべ、ククルスは服の裾をつまんで持ち上げる。


「カッコウの神より使命を受け、この神域へ。目的は神域の乗っ取りに」


この国に駒鳥神がいるように。この国の外のどこかにはカッコウの神が存在する。そこではこの国と同じように神域を巣とし、人間が暮らしている。彼らはカッコウ神を頂点として生活圏を営んでいる。基本的な構造や力関係についてはこの駒鳥神の巣とおおむね変わらない。

そして神の庇護を受ける代わりに、人間たちには使命が授けられる。カッコウがそうするように他の巣を乗っ取れと。巣を統べる鳥神を殺し、その座に成り代われと。

ククルスもまたそのように使命を受けてこの巣に忍び込んだ。そこからは皆の知る通り。


まぁ、驚くべきは黒幕の存在をカッコウと呼んでいたことだ。駒鳥神からすればただの比喩だったろうに、まさかそれが正解ど真ん中を撃ち抜いていたなんて。その一致に驚くばかりだ。


「よくもぬけぬけと……!」


正体がバレても慌てず堂々としているなんて。よくも。

ロヴィーナが忌々しげに舌打ちする。ラディウスが無言で剣を抜いた。一言すら出ないほどの復讐心を煮え立たせて。

殺す、許せない、と駒鳥神がぴぃぴぃ鳴き喚く。やってしまえと叫んだ。


「あら? どうして? 何の罪状で?」

「は……! よく言う……!」

「私は何もしてないですよ? 何も罪を犯していないのに殺すというんです?」


あらやだ。ククルスはそう呟いた。


ククルス自身は何も手を汚していない。やったことといえば巣の外から来ただけ。

巣を乗っ取ろう、駒鳥神を排除しよう、ロヴィーナが邪魔だな、じゃぁ彼女から、と計画を順序立てて考えたくらい。


「でも、私を殺すように仕向けたでしょう。教唆は十分に罪よ」

「えぇ? 私は『やれ』なんて誰にも言ってませんよ?」


順序立てて考えた。だが、それを他人に委託して指示したことはない。『やれ』と命令したこともない。

今までロヴィーナを殺した実行犯たちに聞くがいい。ククルスに『やれ』と言われましたか、と。皆首を振るだろう。この殺害は誰かに指示されたものではなく、自身で判断して実行したものだと。

だから教唆は成立しない。命令していないし、指示していない。仕向けただなんて人聞きの悪い。


「なんだか私と話しているうちに勝手に…………あなたたちが殺意を膨らませたり、行動したりしただけで……」


自分は何もしていない。ただ何気ない会話をしているうちに、向こうが勝手に殺意を膨らませたり決意したりしていっただけだ。技術の発展によって発達した社会に神の存在はいるのかしらと独り言をこぼしたら、その独り言を聞いた誰かが神の手からの巣立ちを決意しだしただけ。巣立ちをしろとは言っていないし促してもいない。扇動などもってのほか。

誰に向けたわけでもない何気ない独り言を聞かれただけ。街角の噂話を口にしただけ。その結果、行動を起こしたのは彼らの勝手だ。


「私は、なぁんにもしてないんですよ」


欺瞞を口にし、ね、と可愛らしく首を傾げる。

裁けないはずだ。巣の外から入ってきたことは犯罪にはあたらない。そもそもそんなこと前代未聞で法律がないからだが。

乗っ取ろうという思想があるだけでは罪にならない。駒鳥神を排除するという思想だけで裁けるのなら、今頃革新派は全員檻の中だ。

明らかに縄張りを犯し、巣を簒奪しに来た敵だとわかっていても、それを裁くことができない。人間社会の尺度ではククルスを裁けない。どんなに危険だとわかっていても。


「屁理屈を……」

「でも、そうなんですよ?」


事実そうなのだ。教唆を適用しようにも、ククルスがやったことは誘導という言葉の範囲にあたらない。ただの独り言など誘導未満である。

ここでククルスを切り捨てることは簡単だろう。だが、ここで強引に殺したらどうなる。都合が悪い者を法を無視して神の一存で切り捨てるのかといよいよ革新派が黙ってはいない。待っているのは革新派との内部抗争。そうして決別した人間たちは争い合い、カッコウの手を経ずとも崩壊する。あとは更地にカッコウが降り立つだけだ。


「っ……!!」


ぎり、とラディウスが唇を噛む。確かにそうなのだ。ククルスの言う通り。正道はあちらにある。兄を不名誉な死に追いやり、汚名を被せた者であってもここで殺せない。

ここで討てるだけの理論が成立できない。だってククルスは外部から来ただけの、ただちょっと迂闊な発言が多いだけのメイドだ。勤務態度は真面目で怪しいところはない。世間的な評価は優秀なほう。それを思想を理由に殺したら、どちらが悪なのだと非難を受けるのはこちら。

ただでさえ駒鳥姫は権威だけの立場の弱い国の象徴。ここで非難を受けるような真似をしたら保守派だって離れるだろう。汚名を雪ぐどころか上塗りだ。


唇を噛むしかないラディウスを見、ククルスはにこりと微笑む。


「ふふ……可哀想なラディウスさん」


仇が目の前にいるのに、なぁんにもできないなんて。

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