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姫の問いかけ

死んで生き返る。たった7文字だが、そこにある苦痛は7文字ではおさまらない。死の感覚は軽減されることはないし、生き返る時だって筆舌に尽くしがたい感覚の中で身悶える。今まで止まっていたものが急速に動き出す静と動の切り替わりに振り回されて、心臓は破裂しそうなほどに跳ねるし、まるで溺れたように息はできないし、全身の感覚は鋭敏になりすぎて僅かな刺激でも鋭い痛みになり、世界のあらゆるものが自分を傷つけるために存在するのではとさえ思う。

それを10回。二桁になってもなお慣れない。


「…………」


そんなロヴィーナの呟きにどう返していいかわからず、ラディウスはただ沈黙する。

そうか。死んでも神の権能で蘇生されるとはいえ、感覚そのものはそのままなのか。考えてみれば当然だが、その事実が重い。

そうですか、とも言えず、ただ沈黙する。


「……なんて。これ、ラドランにも言ったのだけど」


重苦しい沈黙をさらに重苦しくする呟きをひとつ。

いつだったかに同じことをラドランにも言ったことがある。今のラディウスと同じように絶句した彼は、この話を機にますますロヴィーナを守らねばと決意した。そうしてその想いは愛になり、拗らせ、やがて。


あなたはどうだ。ロヴィーナが試すような視線をラディウスに送る。この話を聞き、衝撃に絶句し、そしてどうする。兄と同じく、守らねばと決意を固めるのか。やがて兄と同じく拗らせるのか。そして兄と同じく心中に踏み込むのか。お前はどうする。


あの時、ラドランは『お守りします』と言った。それと同じ回答をするのか。そうして、同じ道に落ちていくのか。

この回答で今後の運命が決まると思え。これは予言だ。兄と同じ回答をしたら兄と同じ道になるぞ。


そう意味を込め、ロヴィーナがラディウスを見つめる。衝撃に絶句してはいるものの、その鉄面皮は普段通り。


「……そう、ですか」


意図を正確に受け止めて、ラディウスが重く沈黙する。

護衛という立場である以上、ロヴィーナをお守りしますと答えるべきだ。だがそれでは兄と同じになる。回答が同じなら末路も同じだろうとロヴィーナを失望させてしまう。その失望は深い溝になって、やがて断裂を生むだろう。護衛の役から降ろさないまでも、本音では語ってくれなくなるし情報も秘されていくだろう。カッコウを見つけて排除することについても、ただの駒としか見てくれなくなる。最悪、外される。


それでは困る。カッコウは兄の仇。それは譲れない。ロヴィーナの失望を買うのはまずい。

さて、どう答えるべきか。この試練をどう乗り越えるべきか。


逡巡。思考。重苦しい沈黙はこれ以上ないくらい重苦しくなっていく。

答えられないか。期待外れめ。ロヴィーナが失望を浮かべ始めた頃。


「…………だとしても、生計は立てられないのでは?」

「はい?」


何を唐突に。意図を掴みそこねて素っ頓狂な声が出た。


「ロヴィーナ様の器用さでは刺繍で生計を立てることは難しいのでは、と申しました」

「はぁ!? 馬鹿にしないで、それくらいやれるけど!?」

「ですが先日、刺繍をしようとして糸を絡ませていたではないですか。針に糸を通すのだって何分もかけて……」

「はぁああ!?」


いきなり何を。思ってもみない方向から、しかも揶揄つきで飛んできた。

あまりのことに完全に不意を突かれ、ロヴィーナは動揺する。がたん、と思わず立ち上がった。


「そう思いませんか」

「へぇっ!?」


デザートの皿を持ったまま部屋の前に立っていた行儀見習いのメイドにもラディウスが問いかける。

あぁなんかまた重い空気で入れない、と部屋の前で途方に暮れていたところに急に水を向けられて彼女が跳ねる。


「え、あぁ、はい。まぁ確かに、ロヴィーナ様はぶきっちょ、いえ、大変独創的ですけど……えぇ、型紙なんてなかったかのような鋏さばきで……」

「ちょっと!?」

「でしょう」

「こらぁ!」


おいこら。朝には威圧して泣かせたとかなんとかしていたくせに。ここで急に結託するな。

くわりと牙を剥くが、ラディウスは相変わらずの鉄面皮で受け流し、行儀見習いのメイドは軽やかにデザートを置いて立ち去る。洗濯があるので失礼しますなんて言いながら。


「はぁ…………」

「ご理解いただけたのなら、仕立て業で生計を立てるのは諦めてください」

「まだ言う?」


この数分でものすごく疲れた。ぐったりとテーブルに突っ伏すと、鉄面皮が僅かに勝ち誇ったような雰囲気を浮かべた。


まぁ、うん。回答とその意図はわかった。ラディウスが取った答えは、『もしも』の想像に乗ってやることだ。

ラドランのように『護衛の騎士としてあらゆる苦痛から守る』のではなく、他愛もない想像に『対等な相手として寄り添う』こと。その結果として出力したのがあの回答。生計を立てるのは無理だとか余計な一言を。おのれ。


その意図は嬉しい。そして、対等な存在でいたいというメッセージも伝わった。そういう意味では、試練に対して完璧な回答だっただろう。出力された言葉は一発殴りたくなるような内容だが。おのれ。


「おのれ……いつかぎゃふんと言わせてやるわ」

「そうですか」


期待しておきますね。まったく期待していない声でそう言われた。

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