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カッコウ

毒紅茶事件から動きもないまま数日。

この間に起きたことといえば、茶葉に毒を混ぜる程度の嫌がらせのような加害だけだ。おそらく革新派の誰かの差し金だろう。積極的に殺そうとするためのものではなく、体調不良を起こす程度の軽いものなあたり、卑怯さと臆病さがうかがえる。

こんなもの歯牙にかける必要もない。とはいえ実行犯はしっかり罰しておくべきなので、つい今しがた犯人である使用人の首を飛ばしたばかりだ。ただでさえ人の少ない屋敷なのにさらに減ってしまった。


「しょうもないわね」


紅茶を飲みつつ、ラディウスに愚痴る。こんなもの構っていたってきりがないが、罰さないとつけあがる。やれやれ困ったものだ。

どうしたものか。技術の革新でも及ばない神の奇跡を見せれば革新派も考えを改めるかもしれないが、残念ながらそんな奇跡の所業などできるわけなく。駒鳥神に寵愛されているとはいえ、それ以外は何の異能も才能も持ち合わせていないただの人間だ。世間に謳われるような不死鳥姫だという部分だって神の権能あってのことだし。


うーん、どうしたものか。困ったように頬を掻く。その途端、開けっ放しの窓から駒鳥が飛び込んできた。


「ねぇねぇ! ちょっと! あいつら許せないわ、許せないの!」


ぱたぱたと羽ばたく駒鳥神はロヴィーナの肩に止まってぴぃぴぃと鳴き喚く。

曰く。気ままに散歩を楽しんでいたそうなのだが、その道中で気まぐれに人間に声をかけたらしい。しかし運の悪いことに、その人間は革新派だったそうな。なんだ駒鳥神かという態度で、神を排除すべきという高説を垂れられた、と。

それが非常に気に入らないらしい。ぴぃぴぃ鳴き喚く文句を要約すると以上だ。


「ここはわたしが温めた巣も同然なのに! 親鳥を追い出して居座るなんて、まるでカッコウみたいじゃない!!」


国と呼称しているが、この地は駒鳥神が作り上げた神域だ。外国など存在しない。他の神の神域がそれにあたるだろうが、この神域は外部と関わりを持ったことがない。閉じられた土地だ。

それはまるで親鳥が丁寧に編み上げた巣のように。人間を雛鳥のように育てている。その親鳥たる神を排除するなんて、まるで巣を乗っ取るカッコウのようだ。

ぴぃぴぃと訴える駒鳥神は怒り心頭だ。ふわふわの羽毛を逆立てて激怒している。猛禽類程度の大きさとはいえ、見目が愛らしい駒鳥なのでまったく怖くない。


「あぁはいはい……とりあえず落ち着いて」

「落ち着いていられるものかしら!」


くわりと牙を剥く。愛らしい駒鳥神の怒りはおさまらず、ロヴィーナに宥められてさらに燃え上がったようだった。


「あなたを殺そうとしている『向こうの誰か』だってカッコウみたいなやつに違いないわ! あなたを追い出して自分がその座に座ろうとしてるんでしょ!」


ぴぃぴぃ。ぴぃぴぃ。怒りに任せて喚き立てる。

あなたはわたしのお気に入りなのに。そんなこと許せない。なにが革新派よ、全員ぶち殺してしまおうかしら。

もはや気に入らないものすべてを殺そうという勢いだ。見た目こそ愛らしい駒鳥だが、それができる力は当然持っている。やらないのは、ここで神が手を下すと保守派と革新派の対立が決定的になるということがわかっているからだ。せっかく育てた巣を二分するなど耐えられないから我慢しているだけ。


「あぁもう! 許さない許さない許さない!!」

「はいはい……」


憤懣やる方ない駒鳥神は置いといて。成程、黒幕の狙いが巣の簒奪なら納得できる。駒鳥神を排除して自分がその座に居座る、そのための一手として駒鳥神の眷属である駒鳥姫を殺害する。殺害を容易にする土壌として政治の場に派閥争いを起こす。そのための革新派。

もしかしたら、近年のめざましい技術の発展も黒幕が仕向けたことなのかもしれない。だとしたらなんと周到か。

カッコウとは言い得て妙、むしろぴたりと正体を言い当てているのかも。デリカシー無しの馬鹿鳥のくせに。


「そうね。ねぇラディウス。私たちも『奴』のことをそう呼ばない?」

「カッコウと?」

「呼び名はあったほうがいいでしょ」


いつまでも水源のたとえを持ち出すのも面倒だし。一言で呼べる呼称があるのはいいことだ。

いいでしょう、と言えば、そうですね、と頷かれた。特に反対する理由もないしそれでいいだろう。


「じゃぁ……今後の目標は、『カッコウ』を突き止めるってことで……いいわね?」

「はい」

「突き止めるだけじゃ足りないわ! ぶち殺してしまいなさい!」


よし、ぶっ殺してしまいましょう。ぴぃぴぃ鳴く駒鳥神は宥めておく。

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