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カッコウの格好の獲物

憤懣やる方ない駒鳥神が腹立ち紛れの散歩に飛び立つのを見送り、冷めた紅茶を淹れ直す。

漂う香りを楽しみつつ、ロヴィーナは今までの情報を整理することにした。


黒幕もといカッコウの目的は立場の簒奪。簒奪の対象が駒鳥神なのかロヴィーナ自身なのかはわからないが、その工作の産物であろう革新派の主張が神の排除なので前者が色濃いだろう。

駒鳥神を排除し、神の居なくなった世界に新たに君臨する。それがカッコウの目的だ。一言で言うなら国の乗っ取りだ。


単に、政治的な権力を奪いたいだけではないだろう。それなら駒鳥神まで排除する必要はない。

カッコウの目的はこの国の理そのものの簒奪。カッコウの生態がそうであるように、本来の雛を押し出して居座り、親鳥すら殺すものとして。


そのために、駒鳥神の眷属であるロヴィーナを殺害しようとしている。あいにく、駒鳥神が生き返らせるせいで失敗続きだが。

そして政治的な方面からも国を弱らせるために革新派を煽った。技術の発展でもって神の排除をうたうように。最新技術や発明をもって、これは神の所業に迫るものだ、これを用いる我々は神に成り代われるのではと囁いて煽り立てた。


そう。ロヴィーナを殺すのは目的のための手段の一環。これまでの10回の死はそのためのもの。

ラドランは利用されたのだ。密かに抱いていた恋心を利用し、心中という形でロヴィーナを排除するために。

もし。もし。その恋心すらカッコウが仕組んだものだったら。だとしたら、なんて。それを思うと途方もない気分になる。


「許してはおけません」

「……そうね」


ロヴィーナと同じところに思考が及んだらしいラディウスが低く呟く。

眩しいほどに焦がれた自慢の兄がそのように利用され捨てられたなど。尊敬を越えて狂信すら寄せていたのだ、許しはできない。


いまだ正体を掴めはできないものの、カッコウという具体的な名称を得たことでラディウスの心の中で憎悪が明確な形を取った。

カッコウを殺すということに関しては、駒鳥神と同じかそれ以上に執念を抱いているだろう。


「問題は、誰かってことよね」


カッコウの目的はわかった。さて、問題はそれが誰だということだ。


単純に考えるなら、革新派の筆頭であるディアデム卿。あるいは、駒鳥神を排除することに熱心すぎる過激派のフリューゲル卿。

でも彼らは違うだろう。彼らを煽るその『向こう』こそがカッコウなのだから。彼らはカッコウに利用されているにすぎない。


彼らを隠れ蓑にしている誰か。革新派の中か、それすら誘導で、実は保守派の中にいるのか。貴族か、それとも財力や権力を持った平民か。裏の世界、つまりならず者たちを取りまとめる荒くれの筆頭かも。

候補は後を絶たない。正体についての情報がなさすぎるせいで絞れない。絞れないから誰だってカッコウ候補になりえる。


さてさて。どうしたものか。ここから手がかりを掴んでいく手が思いつかない。

いや。正体が掴めないなら、掴めないなりに打てる手がある。少し考え、ロヴィーナはティーカップを置いた。


「ラディウス。出かけるわよ」

「……いったいどちらに?」


気晴らしに馬車を走らせての散歩ではない雰囲気を感じ取り、ラディウスが行き先を問いかける。

わざわざ声を掛けるということは、その行き先は護衛が必要なところ。ある程度の危険があるかもしれない場所だ。いったいどこに向かおうというのか。

問うラディウスへ、外套を肩にかけたロヴィーナはさらりと答える。


「ディアデム卿のところに」

「……は?」


革新派の筆頭であるディアデム卿のところに。何故。

彼はそこまで口うるさくないものの、駒鳥神も駒鳥姫も排除してしまおうという思想の持ち主だ。そんなところに向かうだなんて、さぁ殺してくれと言っているようなもの。こちらの話など聞かず、捕縛して処刑だなんてこともありえる。

何故危険に飛び込むような真似を。ロヴィーナの意図が掴めない。


「ディアデム卿だって、この国の崩壊は望んでないはずでしょう?」


政治的な権力の頂点が神ではなく人であればと考えているだけで、国の崩壊そのものは望んでいない。体制をそのままに、頂点の首だけ変わればいいと思っている。

ならば協力だってできるはず。本当に討つべきは巣の崩壊を目論むカッコウであり、雛鳥同士が争う必要はない。むしろ結託してカッコウを追い出さねば、雛鳥は巣もろとも死ぬ。それはディアデム卿だって望んでいないことのはず。カッコウがいること、そのために派閥を越えて協力が必要なことを申し出れば理解してくれるはず。ディアデム卿だって馬鹿じゃない。過激派のフリューゲル卿は話を聞かないだろうが、彼なら話を聞いて事の本質を理解してくれるはず。


「ということで。行くわよ」


カッコウへ、反撃の一手を作りに。

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