血も凍る陰謀の巻 その②
「…………」
何も言わないラミアに対し、ビノは言葉を続ける。
「まあ、ご安心なされよ。元々あの『神の遺骸』は偽物なのです。本当は、錯誤異物などオークションに出されてはいなかったのです。奴らは何の価値もない偽物を手に入れるために、身を滅ぼす羽目になるというわけです」
「それでは、わたくしたちはあなたたちの手の上で踊らされていたというわけですの?」
「そう怖い顔をしなさるな、ラミア嬢。この街には観光に来たと考えて頂きたい。今回かかった費用はすべて私が負担しましょう。もし引き続き滞在なさるのなら、宿も最上級のものを用意しましょう。望むものはなんでもお申し付けください。そして、それで差し引きなしにしようではありませんか」
「いいえ、その必要はありません。私たちは今夜中にこの街を出ます。……いい体験をさせていただきましたわ、ビノさん」
ラミアは踵を返し、中心街の方へ歩き出した。アルも慌ててその背中を追った。
ラミアに追いついたアルは開口一番、
「少しマズいことになりましたね、お嬢様」
「そうね。まさかわざと盗ませるような真似をするなんてことは、考え付かなかったわ」
「すみません。私がもっと早く気がついていれば」
「いいのよ、アル。偽物と本物を入れ替えておくように指示したのは、わたくしなのだから」
すべてのからくりは、こうだ。
先日、オークション会場で見た『神の遺骸』が偽物であるということくらい、ラミアには気がついていた。
なぜなら、彼女は錯誤異物に対し反応する髪飾りを持っているからだ。
そして、このサーシャの町の中で最も錯誤異物の反応が強かったのは、市庁舎の中――特に、立ち入りを禁じられた文書の保管庫だったのだ。
そこでラミアは、自分の髪飾りを持たせたアルを文書の保管庫へ忍ばせ、そこに本物の『神の遺骸』があることを確認した。
その上で、アルに、保管庫にあった本物の『神の遺骸』とオークション会場の偽物の『神の遺骸』を入れ替えさせたのだ。
だから、ビノが偽物のつもりでヌエ一家に奪わせた『神の遺骸』は、実は本物だったということになる。
「どうしましょう、お嬢様」
「錯誤異物研究家として、錯誤異物が不遜な輩の手に渡るのは許せませんわ」
「それでは……」
「そうね。強行突破しかなさそうね」