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卑怯者

「何だったんだ?あのガキ……千代丸の事を法螺吹き呼ばわりしやがって!」

「気でも狂ってんだろ。そんな事より飲もうぜ。目出度い酒だ!!」

「おうとも!!千代丸の出世祝いだ!!!銭は千代丸持ちだがな~」

「がははは!!ちげーねー!」

善吉と宗太が騒いでいるのを見やりながら俺は先程のガキの事を考える。

『嘘つくんじゃねーーよ!!お前は逃げただろうが!!!』

あの言葉は本当だった。

俺は妖退治の兵を引きつれ、兵の先頭に立って村へと入った。

村から数人の案内役を出させ、意気揚々と山の中に入ったが、そこに居たのは想像以上のバケモノだった。



俺が仕える藤家の当主である義忠様は、元服して間もなく領主の座に就いた。

しかし、家臣の者達を纏める力はなく、ほぼ傀儡と化していると聞いた。

1年前に士官を願い出ると、俺の腕っぷしが家臣の1人、北方弦斉の目に留まり、兵の一人として雇われることに成功した。

この北方様が今の藤家の多くを仕切っており、このまま手柄を立てれば正式に取り立ててもらえると考えていたが、この辺りは戦が少なく小競り合い程度しか俺の活躍の場が無かった。

その辺から徴兵されたヤツ等と一緒に領境にまで行き、適当に1当てして戻って来るだけ。これでは手柄を立てようが無い。

本家大名から招集が掛かるような大きな戦は無い物かと考えていた所に、領内に妖が湧いたという話が出てきた。

最初はまやかしだと鼻で笑っていたが、家中で討伐の話が本当に出ている事を知る。

家臣団が集まって評定を行っている時、俺は控えの間で漏れ聞こえる話し合いを聞いていた。


妖とは人が戦うには危険な相手で、専門の技を持っている者しか退治するのは難しいとの事だった。しかし、その技を持つ者はこの辺りには三徳寺と言われる寺の坊主のみであるらしい。

しかも、退治を依頼するには多額の費用が係るとの事。これを北方様が渋っている様だった。


この時俺は思った。

坊主如きが退治できるなら俺でも出来るはずだと。


定評が中断され、北方様が控えの間にやって来られる。

渋い顔をされた北方様に俺は自分をここぞとばかりに売り込んだ。坊主に任せるくらいなら俺に任せて欲しいと。

その方が報酬も少なく、北方様の手柄にもなると必死に説明すると、北方様は他の家臣達の反対を押し切り藤様から200貫の報酬を約束され、俺は妖退治の兵のまとめ役を任されることになった。



山の中で遭遇した妖は俺達より遥かに大きく。不気味で。凶暴だった。

腕の一振りで巨漢なマタギとキコリを吹き飛ばし、兵達に突っ込んできたのだ。俺はその姿に縮み上がり動く事も出来なかった。

皆が委縮して動くことが出来なかった中で、唯一バケモノに向かって行ったのは村から集めた中でただ一人刀を持った農民だった。

そいつは咆哮を上げながらバケモノと切り結び、僅かながらに傷をつける事にも成功していた。

俺は大声で兵に突撃命令を出し、あのバケモノへかかって行くように促すが、怯えてしまっている兵の脚は中々前に進まない。

俺は後ろから槍の石突きで兵の背中を突き、前に押し出す。

それで漸く兵共はバケモノへと向かって行くが、この時後方からへ悲鳴が聞こえ、振り返ると背丈は小さいがサルの様なバケモノが後方の兵に襲い掛かって来たのだった。


あっという間に混乱が広まり、統制も何もあったものではなくなってしまう。


組み付かれ、食い殺されていく兵が増えて行き、逃げ出す兵も出てくる。こうなっては妖討伐など不可能だ。北方様に向かって大見栄を切り、兵を預けてもらっておいて失敗しましたでは首を刎ねられても可笑しくない。

それよりも、このままでは俺も食い殺されてしまう。


そう考えていた時、バケモノの方から飛んできた何かに当たり、その勢いで藪の中に飛ばされてしまう。

俺に当たった物と一緒にゴロゴロと転がり、漸く止まったと思い飛んできた物を見ると、あの刀を持った男の死体だった。

全身が傷だらけで胸は大きく抉られており、片目は潰れ、顔の半分が何故か黒くただれているが、無事な方の目は見開き、殺意を漲らせている様に感じた。


俺は一計を講じ、脇差でこの男の首を切り落とす。

締った首の肉が固く、なかなか刃が通らなかったが何度も斬りつけることによって漸く切り落とすことが出来た。

俺はそれを抱え、山を下りるため懸命に走った。

前方を見ると脱走した兵たちが見える。

「村へ駆け込め!!そうすれば何とかなる!!」

俺がそう叫ぶと、兵たちは声を上げながら村へと向かって走り始めた。俺は道を外れ隠れながら村へと向かって行く。


俺が思った通りあの兵を追いかけて行った小さいサルの様なバケモノは村の中へと入って行き村人を食い始める。

俺はその混乱に乗じて逃げようとしたが、俺にも1匹のサルの追手がかかった。

男の頭を抱えながら懸命に走るが、サルの脚の方が速くこのままでは追い付かれる。視線を前に戻すと、2人の子供が村の外へ逃げようと走っているのが見えた。


これは使えると考えた俺は落ちていた石を拾うとガキ共に向かって投げつける。当たらなくても驚いて転んでくれれば俺は助かる。そう思っての行動だ。

飛んでいった石は運よく手を引かれていた子供の頭に当たり、2人纏めて転がすことに成功した俺は追って来るサルをその子共に擦り付け、村から出ることに成功したのだった。


ある程度村から距離を離し、抱えていた首を布で包み込んでいると、後ろを何かが物凄い速さで通り過ぎて行った。

また追手か!と振り返るが、もうそこには何もおらず、不思議に思ったが俺は包んだ首を持って山道を走り出した。



それから数日かかって藤家の御屋敷に戻り、鬼の首を取って来たと報告した。

かなりの強敵で、俺以外の兵は全滅。預かった槍も折れ、脇差を使って鬼の首を刎ねたと北方様に話した。


それは当主の藤様にも伝わり、切り取った男の首は無事に鬼の首だと認められ、俺は多額の報酬と藤様の家来としての御取立てを約束してもらい。この町の者達には鬼殺しと称えられる事になったのだった。



このまま順当に出世し、俺の家を興すんだ!と息巻いていた所に、あのガキが現れた。

恐らく俺が投げた石が当たったどちらかなのだろう。


俺の出世を邪魔しようとは……あの村で食い殺されていれば良かったものを……


あのガキが生きているのはマズイ。俺の嘘が明るみにでる可能性が有る。

あの首は、あのガキの知り合いの者のはずだ。今日の夜河原で張っていたら現れるかもしれん。

そう考えた俺は2人と別れた後、北方様から譲り受けた刀を持って河原で張ることにした。


かなり長い間待っていたが一向に現れない。あのまま男に連れられて町を出たのか?と考え始めた頃、あの首が置かれている所に小さな影が現れる。


あいつだ!!

バカなガキが。下手に騒がなければ死なずに済んだものを。と足音を殺し後ろから近づいていく。

すぅっと鞘から刀を抜き、振りかぶった時。

ガキの声が聞こえた。


「………とーちゃん………」


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