第9話 解体が、早い
月曜日。いつもの現場である。
「派遣さ~ん、解体よろしくー」
いつもの声。いつものホーンラビット八体。いつもの解体場。
違っていたのは、俺のほうだった。
ナイフを入れる。——吸い付く。
毛皮と肉の境目が、見なくても分かる。刃の通る道筋が、先に薄く光って見えるような感覚。
【解体Lv3】。毎晩4ポイントの積み立ては、こういうところに効いてくる。
気づけば、八体目の処理を終えていた。
……いつもの、半分の時間で。
「……あれ? 派遣さん、もう終わったの?」
「え、早くない?」
「道具、変えました?」
周囲が、ざわっとした。
「アレッ?」という顔が、こちらに三つ四つ向いている。
——しまった。
「フン。16年もやってりゃ、手癖くらいつくだろ」
通りかかったドルフさんが鼻で笑った。
嫌味のつもりなんだろうが、この場でいちばんまともな擁護である。ありがとうございます。
◇◇◇
「レントさん!」
昼休み、エリスさんが目を輝かせて駆けてきた。
「さっきの解体、見てました。すごく綺麗でした! あの、今度教えてください!」
「……解体を、ですか。正団員が覚えてどうするんです」
「上手な人から学ぶのは基本です! だめですか?」
顔が近い。院卒はみんなこんなに距離が近いのか。
だめとは、言えなかった。押しに弱いのではない。押しが強すぎるのだ。
「じゃ、約束ですね!」
約束した覚えはないのだが、約束になったらしい。
◇◇◇
午後は、意識してゆっくりやった。
が——ゆっくりやっているのに、早い。
丁寧にやると精度が上がって、結局早い。雑にやろうとすると、手が勝手に正しい場所へ動く。
手を抜くというのは、技術なのだ。それも、かなりの高等技術である。
「なあ。【手を抜く】ってスキルはないのか」
『申し訳ございません。【手を抜く】というスキルのお取り扱いはございません』
「肝心なときに使えない板だな」
『勤勉は美徳でございます』
美徳が今、俺の首を絞めている。
◇◇◇
夕方、班長格の正団員に呼び止められた。
「派遣さん、解体早くなったんだって? じゃあ余裕あるよね。次の討伐、前衛寄りで頼むよ。あ、運搬と兼任で」
……こうなるのだ。
あの熱の朝に予想した最悪の事態である。成果を出すと報酬が増えるのではない。基準が上がるのである。
仕事が増えた。時給は増えていない。
案の定すぎて、逆に笑えてくる。
『仕事のご褒美は、仕事でございますね』
「うるさい。よく知ってるよ、そんなこと」
『知って、なお働く。頭が下がる思いでございます』
……最悪だ。手の抜き方にも才能が要るのか。
◇◇◇
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【スキルボード】
氏名 :レント
レベル :999/999(MAX)
スキルP:999,839pt
取得済み:解体Lv3/身体強化Lv5
気配察知Lv3 ほか十四件
備考 :【気配察知Lv4】分割払い受付中
(手数料は頂いておりません)
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