↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/18

第8話 日曜日の珈琲

 日曜日である。


 週末、ダンジョンは閉まる。ギルドの規定だ。つまり派遣の俺も休みである。

 ただし時給制の人間にとって、休日とはすなわち無給日だ。

 働けば増え、休めば増えない。だから十六年間、日曜は「金の減る日」だった。飯を食えば減る。何もしなくても家賃で減る。なるべく安く、なるべく静かに消化する日。それが俺の日曜だった。


 今日は、違う。


『抽出が完了いたしました』


 卓の上、縁の欠けたマグカップから湯気が立っている。

 【珈琲抽出Lv1】。先日の夜、ボードの営業に負けて買った、2ポイントのスキルである。

 市場で一番安い豆が、このスキルを通すとどういうわけか香りの立つ一杯になる。


 ……旨い。

 悔しいが、旨い。


『お口に合ったようで、なによりでございます』

「営業をかけた自覚はあったんだな」

『当ボードはお客様のより良いスキルライフを応援しております』


 調子のいい板である。


 しかし、我ながら酔狂な買い物だとは思う。

 ポイントは人生の通貨だ。誰もが剣術や魔法や、飯の種になるスキルに振る。珈琲のために2ポイントを払う人間なんて、もったいなくて普通はいない。いるとしたら、それで店を開く喫茶店のオーナーくらいのものだろう。


 俺は払える。

 なにせ残高が九十九万ある。


 ◇◇◇


 旨い珈琲を片手に、ボードを眺める。

 振り始めてから、およそひと月半。俺のやり方はこうだ。


 最初の10ポイントで、二日間の地獄を見た。

 だから実験をした。手順は単純、半分に割っていくだけだ。

 まず10の半分の5——翌日、一日きつかった。もちろん出社したが。

 なら答えはその下だ。2、3、4——何ともない。

 かくして安全上限は「一日4ポイント」と確定した。5は二度とやらない。


 以来、毎晩きっちり4ポイント。

 風呂上がりの歯磨きみたいな日課である。


 今夜の分を足せば、累計は156になる。

 相場で言えば、およそ31レベル分。

 「普通の30歳」を丸ごと一人、自分の上に乗せた計算だ。


『堅実なご利用、なによりでございます』

「積み立ては得意なんだ。何せ十六年、天引きされる側だったからな」


 珈琲を、もう一口。

 ……やはり旨い。


 ◇◇◇


 窓の外は、日曜の午後だ。

 通りから子供の声がする。どこかの鐘が鳴っている。

 金の減る日だったはずの休日が、たった2ポイントでこんなに変わるとは。


 ◇◇◇


――――――――――――――――

【スキルボード】

 氏名  :レント

 レベル :999/999(MAX)

 スキルP:999,843pt

 取得済み:珈琲抽出Lv1/身体強化Lv5

      解体Lv3/気配察知Lv3

      ほか十三件

 備考  :当ボードは土日も通常営業でございます

――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。