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第10話 気配察知Lv4

 七月中旬。俺は討伐班の列の中にいた。


 先日の「前衛寄りで頼むよ」が、現実になった形である。

 役職名は「運搬兼遊撃」。要するに、荷物を背負ったまま戦えということだ。世の中には兼任という便利な言葉がある。なお時給は変わらない。


 場所は第三層の別区画。コボルトの巣が広がっているらしく、その駆除だ。

 班は正団員が五人、エリスさん、それと俺。


 ……で、だ。

 歩き出して十分で、俺は自分の失敗を悟った。


 【気配察知Lv4】。

 先週、分割払いが完了したばかりの新品である。

 これが——効きすぎる。


 壁の向こうの足音。天井の岩の軋み。二百歩先の空洞の反響。

 入ってくる。全部、入ってくる。

 坑道全体が、うっすら透けて見えているようなものだ。


「そこ、崩れますよ」


 言った三秒後に、天井から岩が落ちた。

 班の視線が俺に集まる。


「……右の横穴、来ます。五——いや、六匹」


 言った通りに、コボルトが六匹飛び出してきた。

 正団員たちが応戦して、難なく片付く。強い敵ではないのだ。分かってさえいれば。


 そして三度目のそれが終わったとき、班の一人がゾワッとした顔で聞いてきた。


「……なんで、分かったんですか?」


 来た。

 落ち着け。俺には十六年物の言い訳がある。


「勘です」

「勘……」

「あとは経験ですよ。この層は長いので」

「経験……」

「それと、度胸です」

「度胸は関係なくないですか?」


 関係なくはない。この会話をしている今、一番使っているのが度胸だ。


 幸い、「十六年のベテランだから」で場は収まった。

 ベテランという言葉は便利である。中身を問われない。


 ただ一人。

 エリスさんだけが、何も言わずにじっとこちらを見ていた。

 ……その目は、やめてほしい。


 ◇◇◇


 討伐は事故ゼロで終わった。


 帰り際、班長が報告書を書くのを横からちらりと覗いた。

 成果欄——「コボルト三十二体討伐。負傷者なし」。

 崩落を三回当てた男のことは、どこにも書いていない。


 まあ、書けないだろう。「派遣の勘により事故ゼロ」とは。

 書いたところで、派遣の報告は参考資料フォルダ行きだ。

 俺の勘は、今日も記録に残らない。


 ……最悪だ。当たりすぎる勘は、勘って言わないんだよ。


 ◇◇◇


 数日後。支部の掲示板に、新しい貼り紙が出た。


 『第五層攻略プロジェクト 人員増強のお知らせ(※派遣含む)』


 ※派遣含む。

 ……こういう時だけ、含まれるのである。


 ◇◇◇


――――――――――――――――

【スキルボード】

 氏名  :レント

 レベル :999/999(MAX)

 スキルP:999,803pt

 取得済み:気配察知Lv4/動体視力Lv3

      聴覚強化Lv3 ほか十五件

 備考  :本日の的中率は100%でした

      (勘ではございません)

――――――――――――――――

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