第6話 嵐の日も派遣は出社です
ごう、と窓が鳴った。
六月中旬。予報どおりの大嵐である。
雨は横に降り、街路樹はしなり、屋根の看板が一枚飛んでいくのを見た。当然、本日のダンジョン討伐は中止だ。
では、正団員はどうするか。
在宅勤務、である。
各自が支給の魔導通信器を使って、自宅から報告を上げるだけでいいらしい。文明とはすばらしい。
では、派遣はどうするか。
……通信器を支給されていない。
つまり報告のしようがない。つまり、出社である。
暴風の中、俺は今日も作業着で歩いた。
途中で傘が裏返り、骨が二本折れた。
◇◇◇
支部に、一般の正団員の姿は無かった。
出てきているのは管理職以上の数人だけ。それも奥の執務室にこもったきり、扉が開く気配はない。
しんとした廊下。無人の詰め所。誰も座っていない受付。
現場にいるのは、あちこちに散った作業着姿の派遣だけだ。
「一般職員は在宅」の日にこの支部を回しているのが、職員ですらない俺たち派遣という事実は、なかなか味わい深い。
やることは山ほどあった。
鳴り続ける魔導通信の応対。武器のメンテナンス。備品の整理。
通信の相手は、だいたい第一声がこうだ。
『なんだ、派遣さんか』
なんだ、で悪かったな。今日この支部の現場を回しているのは派遣だけだ。管理職の方々は、朝から執務室の扉を一度も開けていない。
昼前、通信器の一つがまた鳴った。ドルフさんだった。
『あー、派遣さん? ちょうどよかった。詰め所の武器、ついでに全部研いどいてよ』
「……全部、ですか」
『僕の剣は特に念入りにね。よろしくー』
ぶつり、と通信が切れた。
在宅の男から、出社している俺に飛ぶ追加指示である。
研ぎ石を取りに立ちながら考える。在宅勤務とは、いったい何なのだろう。
◇◇◇
研ぎ石を借りに倉庫へ行くと、先客がいた。
資材管理の年配正団員、バルドさんである。倉庫が持ち場なので、管理職でもないのに嵐でも出てくる人だ。
「おう。……レント、だったか。悪いが手ぇ貸せ。雨漏りだ」
この職場で俺を名前で呼ぶ、数少ない人である。
二人で黙々とバケツを並べ、濡れかけた素材袋を積み替えた。終わり際、バルドさんはぼそりと言った。
「済まんな、若いのは在宅とやらでよ。……悪く思うな。あいつらに悪気はねえ。仕組みが、そうなってるだけだ」
仕組み。
その一言は、妙に腑に落ちた。
◇◇◇
昼は持参の水筒の水と、いつも通りの固いパンだ。
ちなみに食堂は休みである。主な利用者である一般の正団員が、今日は出社していないからだ。
働いている人間なら、ここに何人もいるんだが。
……まあ、やっていたところで派遣には倍の値段だ。どのみち行かないが。
◇◇◇
午後いっぱいかけて、詰め所の武器を研ぎ終えた。二十七本。
腕が上がらなくなる前に終わったのは【身体強化Lv1】のおかげだろう。
スキルのおかげで、無給の追加業務が捗る。この現象にそろそろ名前をつけたい。
『【研磨Lv1】のご購入で、作業効率がさらに向上します。いかがでしょうか』
「無給の作業を効率化してどうする」
『ピカピカになりますよ』
「ピカピカ、かぁ……」
危うく買いかけた。この板、営業の才能がある。
帰り支度をしていると、受信箱に一枚の通信メモが残っているのに気づいた。
『来週より、協力会社より派遣スタッフ一名、現場に合流予定』
……へえ。珍しい。
この現場に追加の派遣か。
◇◇◇
外に出ると、風はまだ暴れていた。
二本骨の折れた傘が、玄関を出て十歩で三本目を折られた。
……最悪だ。傘も自腹なんだぞ。
『【防風障壁Lv1】はいかがでしょうか。3ptです』
「傘を三本買った方が安い」
◇◇◇
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【スキルボード】
氏名 :レント
レベル :999/999(MAX)
スキルP:999,923pt
取得済み:身体強化Lv3/解体Lv2
気配察知Lv2/研磨Lv1
ほか九件
備考 :【研磨Lv1】お買い上げありがとうございます
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