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第15話 スタンピード(中編)

 群れの中央で、金色の髪が揺れている。


 エリスさんは戦っていた。

 さすが院卒主席と言うべきか、剣筋は正確で無駄がない。

 だが多勢に無勢という言葉は、この世界にもある。彼女を囲む黒い影は、十や二十ではきかなかった。


 俺はと言えば——さっきから、普通に剣を振っている。

 派遣たちを逃がすために群れの先頭を潰し、道を塞ぎ、追手を斬り落とし。

 隠す? もう、そういう段階ではない。

 というか、隠しながら守り切れる数でもない。


 【身体強化Lv7】の剣は、ブラッドウルフ程度なら一撃で沈む。

 【気配察知Lv5】は、背後から来る牙を全部教えてくれる。

 毎晩4ポイント、こつこつ積んで272。相場で言えば五十レベル分——隊長格とまでは言わないが、それに迫るだけの蓄えが、今日は命の値段で働いていた。


「エリスさんッ! 左、二匹!」

「——はいっ!」


 群れを割って、彼女の背中に付く。

 背中合わせ。彼女の剣が右を薙ぎ、俺の剣が左を落とす。


「レントさん、なんで、そんな……!」

「話は後で! 前だけ見てください!」


 ◇◇◇


 そこからは、ただの力仕事だった。


 斬って、蹴り飛ばして、また斬る。

 解体十六年の知識が、急所を教えてくれる。オークなら膝の腱。ウルフなら首筋。ケイブベアなら顎の下。

 どこを斬れば止まるかを知っていれば、一匹あたりの手数は少なくて済む。

 倒した数は、途中で数えるのをやめた。時給で割ると悲しくなるからである。


 やがて——坑道が、静かになった。

 立っている魔物は、もういない。


「……はあっ、はあ……」


 エリスさんが肩で息をしながら、まじまじと俺を見た。


「レントさん。……なんで、そんなに強いんですか」

「……勘と、経験と、度胸です」

「絶対違いますよね!!」


 まあ、それだけでは、ないですね。


 ◇◇◇


 さて、言い訳をどうするか——と考えた、矢先だった。


 ——ずしん。


 坑道全体が、揺れた。


 群れの来た方角。崩れた壁の、そのまた奥から。

 闇より濃い影が、天井を擦りながら、身を起こす。


 肩までの高さが、およそ人の三倍。

 手にした棍棒は、そのへんの正団員より太い。

 オーガの上位種——オーガロード。この群れを下から追い立ててきた、原因そのものだ。


 全身は岩のこぶのような灰色の外皮に覆われ、古い矢傷や噛み跡があちこちで盛り上がっている。下層で殺し合って、生き延び続けてきた体だ。

 風向きが変わって、腐った脂と古い血の臭いが、まとめて押し寄せた。


 ……職業病で、先に素材の値踏みをしてしまった。あの角と外皮だけで一財産である。

 いや、違うだろ。まず生き残る算段をしろ、俺。


 【気配察知Lv5】が、その圧を正確に伝えてくる。

 正確すぎて、嫌になる。


 ……最悪だ。ボス案件は単価が違うんだぞ。


 ◇◇◇


――――――――――――――――

【スキルボード】

 氏名  :レント

 レベル :999/999(MAX)

 スキルP:999,727pt

 取得済み:身体強化Lv7/解体Lv4

      気配察知Lv5 ほか十六件

 備考  :本日のご利用はありません

      (積み立てが、命を守っております)

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