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灯台荘の微光  作者: 浮世雲のジュン


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第35話 「あかりの小さな影と、美咲の灯り」

第35話 「あかりの小さな影と、美咲の灯り」


夕暮れの灯台荘、岩場の端。

波の音が優しく繰り返す中、あかりは美咲の膝の上にちょこんと座っていた。

美咲はあかりの細い髪を、ゆっくりと指で梳いている。

悠真は少し離れた場所で、静かにその様子を見つめていた。「あかりちゃん……美咲先生のこと、覚えてる?」美咲の声は穏やかだったが、胸の奥に小さな痛みを秘めていた。あかりはこくりと頷き、小さな声で答えた。

「うん……先生のところに、いたよ。

暗い部屋で、いつも泣いてた……」

あかりの過去は、灯台荘に来る前、施設の片隅にあった。三歳の頃、両親を事故で失ったあかりは、施設に預けられた。

夜になると、ベッドの隅で小さく丸くなり、誰にも聞こえない声で「おかあさん」と呼び続けていた。

周りの子供たちはそれぞれに傷を抱え、言葉が少ない日々が続いた。そんなあかりを、担当の保育士・美咲がいつもそっと抱きしめてくれた。

「大丈夫だよ。あかりちゃんは、ひとりじゃないよ。」

美咲の声は優しかったが、彼女自身も兄の消息を絶って心に穴が空いたままだった。

だからこそ、あかりの小さな震えが、自分の胸の痛みと重なって、余計に切なかった。ある夜、あかりが高熱を出した。

美咲は夜通し付き添い、冷たいタオルを替え続け、

「あかりちゃんが笑う顔が見たいな」と何度も囁いた。

あかりがうわ言で「お兄ちゃん……」と呼んだとき、美咲の目から涙が零れた。

「私も……お兄ちゃんに、会いたいよ……」やがて、あかりは灯台荘へと旅立った。

「海の近くの、温かいおうち」——美咲が自分で選んで送り出した場所だった。

「そこなら、きっと光が見つかるよ」と言い聞かせながら、胸が張り裂けそうだった。

美咲はあかりの頭を優しく抱き寄せ、声を震わせた。

「ごめんね、あかりちゃん。

先生、ずっと心配してた。

あかりちゃんが泣いてる夜に、先生も泣いてたんだよ……

お兄ちゃんのことを思いながら。」あかりは美咲の胸に顔を埋め、小さな手でぎゅっとシャツを掴んだ。

「先生……ここ、来たよ。

灯台のおじちゃんたちと、悠真おじちゃんがいるよ。

先生も……一緒にいて?」その言葉に、美咲の胸が熱く締め付けられた。

十年間、兄を想いながら子供たちを守ってきた自分が、

今、兄と、再会したあかりと、同じ場所にいる。

涙が、止まらなかった。

温かく、優しい涙だった。悠真がゆっくりと近づき、二人の肩にそっと手を置いた。

「……ありがとう、美咲。」

掠れた声に、深い感謝が込められていた。

その夜、岩場に二十三人が集まった。

奏のギターと響子のバイオリンが、静かな調べを奏でる。

あかりは美咲の膝の上で、悠真の隣に寄り添っていた。海人は皆を見回し、穏やかな声で言った。

「灯りは、時に遠く離れた場所で、互いを知らずに輝き合う。

あかりの小さな影と、美咲の優しい灯りが、

ここでようやく重なった。

過去の痛みは、消えるものじゃない。

でも、誰かと分かち合えば、

それは優しい光に変わる。」夜更け。

海人は灯台の最上部で、星空の下に語りかけた。(遥……

今日、あかりの過去と美咲の想いが、静かに繋がった。

美咲が守ってきた小さな命が、

ここで兄と再会し、温もりを重ねている。

この灯台荘は、ただの避難所じゃない。

失われたつながりを、そっと取り戻す場所なんだな。

……君の残した微かな光が、

こんなにも深く、たくさんの人を照らしてくれている。)風が、三人の頰を優しく撫で、

灯台の回転灯は、静かに夜の海を包み続けた。

(第35話 完)


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