表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯台荘の微光  作者: 浮世雲のジュン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/44

第36話 「美咲の胸の渦と、灯りに溶ける想い」

第36話 「美咲の胸の渦と、灯りに溶ける想い」


夜の灯台荘、二階の小さな客室。

https://suno.com/s/qCJH5kNrzwI0iILo

窓から差し込む回転灯の淡い光が、壁をゆっくりと横切っていく。

美咲はベッドの端に座り、膝を抱えていた。

指先が白くなるほど強く、自分の腕を掴んでいる。

再会から数日が経ち、喜びが少しずつ落ち着いた今、胸の奥に溜まっていたものが、堰を切ったように溢れ出そうとしていた。(……お兄ちゃんに、会えた。

本当に、生きてここにいてくれた。

でも……なぜだろう。この胸の痛みは、消えない。

十年間、ずっと「お兄ちゃんはもういないのかもしれない」って、

心のどこかで覚悟していた自分が、まだここにいる。)美咲の息が、浅く震えた。

目をつぶると、過去の記憶が鮮やかに蘇る。

施設の廊下で、子供たちの笑い声を聞きながら、

「私のお兄ちゃんは……今、どこで何をしているのだろう」

と、毎晩のように胸を締め付けられた夜。

保育士として笑顔を振りまくたび、罪悪感が胸を抉った。

「私は子供たちを守れているのに、自分の家族を守れなかった。」

その矛盾が、毎日のように心を削っていた。今、悠真の温もりを知ったからこそ、

失われた時間の重さが、痛いほどに胸にのしかかる。

美咲の喉が、熱く詰まった。

涙が、頰を伝い落ちる。

熱い。

十年分の、言葉にできなかった孤独と後悔と、

ようやく出会った安堵が、混ざり合って、胸の中で渦を巻いている。(あかりちゃんの小さな手を握るたび、

「お兄ちゃんにも、こんな温もりをあげたかった」って思った。

でも今、あかりちゃんがここで笑っていて、

お兄ちゃんが、あかりちゃんの隣で刷毛を握っている……

この光景が、夢みたいで……怖い。

もしまた、失ってしまうとしたら……?)そこへ、静かな足音が近づいてきた。

悠真だった。

ドアをそっと開け、美咲の隣に腰を下ろす。

まだ言葉は少ない彼は、ただ、震える妹の肩に、ぎこちなく腕を回した。「……美咲。」

掠れた声が、優しく響く。美咲は兄の胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。

「怖かったよ……ずっと……

お兄ちゃんがいなくなってから、世界が真っ暗で……

子供たちの笑顔を見ても、心のどこかが冷たかった。

でも今……ここにいて、温かい……

この温もりが、夢じゃないって……信じたい……」悠真の大きな手が、美咲の背中を、ゆっくりと撫でた。

そのリズムが、美咲の胸の渦を、優しくほどいていくようだった。

痛みはまだ残っている。

でも、その痛みの中心に、確かに灯りが灯り始めていた。

兄の体温、灯台の回転光、あかりの小さな手の記憶——

すべてが、美咲の心の闇を、そっと照らしている。

翌朝。

美咲は外壁塗装の場で、あかりと悠真の間に立っていた。

刷毛を動かす手が、昨日より少しだけ軽やかだった。

胸の奥の渦は、まだ完全に消えていない。

でも、波の音と皆の息遣いが、その渦を優しく包み込んでいる気がした。海人は皆を見回し、静かに言った。

「美咲さんの胸には、長い間、静かな嵐があった。

再会は、喜びだけではない。

失われた時間を、痛みとともに受け止めることでもある。

でも、その痛みを分かち合うことで、

灯りはより深く、温かく輝く。」夕暮れの岩場で、奏のギターが優しく響いた。

美咲は悠真の隣に座り、あかりを膝に抱きながら、

小さく、けれど確かに微笑んでいた。

胸の渦は、まだある。

でも、それはもう、恐ろしいものではなく、

ゆっくりと光に変わりゆく、優しい波になっていた。夜。

海人は灯台の最上部で、遥に語りかけた。(遥……

美咲の胸の深い渦を、今日、そっと覗いた。

十年分の孤独と後悔と、愛おしさ。

それが今、兄の温もりと、あかりの純粋さと、

ここにいる皆の灯りに、ゆっくり溶け始めている。

この灯台荘は、ただ癒やす場所じゃない。

心の底の痛みを、優しく受け止めて、光に変える場所なんだな。

……君が灯してくれた微かな光は、

こんなにも深く、たくさんの想いを包み込んでいる。)風が、美咲の頰を温かく撫で、

灯台の光は、静かに、夜の海と心を照らし続けた。


https://suno.com/s/qCJH5kNrzwI0iILo

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ