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灯台荘の微光  作者: 浮世雲のジュン


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第30話 「灯台の影と、届いた手紙」


朝の六時十五分。灯台荘の台所は、二十三人分の息遣いで穏やかに満ちていた。


悠真はまだ隅の椅子に座ったまま、昨夜のハーブティーの杯を両手で包んでいた。指先が微かに震えることはなくなっていたが、視線はまだ床の木目に向けられたままだった。あかりが、いつものように小さな足音を立てて近づいてきた。

今日は手に、昨日拾った桜の花びらではなく、一枚の折り紙を持っている。

不器用に折られた、白い灯台の形。「おじちゃん……これ、悠真おじちゃんに。」悠真の喉が、かすかに動いた。

ゆっくりと手を伸ばし、受け取る。指が折り紙に触れた瞬間、十年ぶりに感じる「誰かの温もり」が、胸の奥で小さく波打った。「……ありがとう。」

声はまだ掠れていたが、確かに言葉だった。海人は黙って味噌汁をよそい、悠真の前に置いた。

「今日は風が強い。午後、みんなで外壁の塗装を手伝ってくれると助かる。」悠真は小さく頷いた。

それだけで十分だった。午前中、澪は郵便受けの前に立っていた。

風雨に晒された小さな木箱の中には、昨日まではほとんどなかった一通の手紙が入っていた。差出人は——高橋 遥 たかはし はるか。

いや、違う。

澪の目が、封筒の宛名をもう一度確かめた。高橋 澪 様封を切ると、中には丁寧な字で書かれた短い文と、一枚の写真が入っていた。

澪さんへ突然のお手紙、失礼いたします。

私は、澪さんが以前担当されていた少年・翔太の祖母です。

翔太が亡くなった後、ずっと胸にしまっていた手紙を、ようやく書く勇気が出ました。翔太は、施設を辞める少し前、私にこう言っていました。

「おばあちゃん、僕、灯台みたいな人を知ってる。

暗い夜でも、消えない光をくれる人。

澪先生だよ。」澪さんが自分を責めていると知って、胸が痛みました。

翔太は、澪さんのおかげで、最後の数ヶ月、笑うことができました。

どうか、自分を許してあげてください。

そして、どうか、これからも誰かの夜に、そっと灯りを。——翔太のおばあちゃんより写真には、翔太が笑顔で描いたクレヨンの絵があった。

粗い線で描かれた、白い灯台と、その下に立つ小さな女の人の姿。

女の人の手には、淡いオレンジ色の光が描かれていた。澪は写真を胸に当て、しばらくその場に立っていた。

頰を伝う涙が、床に落ちる音すら、波の音にかき消された。

午後。

強い海風の中、二十三人は外壁塗装をしていた。

悠真は刷毛を握り、ゆっくりと白いペンキを塗り広げていた。

隣であかりが、小さな刷毛で一生懸命に下の方を塗っている。「悠真おじちゃん、もっと上、塗って。」悠真は初めて、口元をわずかに緩めた。

「……ああ。」海人は梯子の上から、それを見下ろしていた。

風が灯台のてっぺんの回転灯を揺らし、昼間でも微かな光の輪が、皆の影に落ちる。夕方、岩場で輪になったとき。

海人はいつものように皆を見回し、静かに言った。「今日は、手紙が届いた。

そして、刷毛が動いた。

灯台の影は、決して消えない。

ただ、誰かがそこに手を伸ばせば、影は光に変わる。」恵美があかりを抱き、澪が悠真の隣にそっと座った。

奏と響子が、今日も静かな弦の音を奏で始めた。夜。

二十三個の杯に、ハーブティーが注がれた。海人は最上部に上がり、星空の下で遥に語りかけた。(遥……

また一つ、深い海から上がってきた声が、

ここで言葉を取り戻し始めた。

手紙も、刷毛も、小さな折り紙も——

みんな、灯台の光に導かれて、ここに辿り着いたんだ。この灯台は、これからも

「ただいま」を待つ。

そして、いつか「行ってきます」と言える場所にも、

なっていくと思う。)風が、優しく海人の頰を撫でた。


(第30話 完)



優しくて、静かで、ほんの少しずつ光が広がっていく温度感

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