国民たちと願い 2
「まずは……それぞれの現状確認はマルハレータ側がやってくれたみたいだから、みんなの現在地を確認しましょう」
影霊の位置は王の間から調べることができる。
マルハレータ達が旅をしている時も大陸での位置を確認できていたもの。かなり広範囲でも居場所はわかるはず。
お城に合図を送ると目の前の地図が大きくなり、王の間の中央の空間に大きな球体の地図として現れ、その表面にうちの国の島と、演習先の小島がわかりやすく表示される。
次に、小島から少し離れた海の上に翼を広げた鳥の絵がひとつ。
「カニールの位置はここね。……今は移動していないみたい」
そこから一気に地図が動いて、また別のもう一箇所に小さな鳥の絵。
「ラオリエルがここで、ライナとシメオンも一緒のはず」
こっちはかなり離れている。でもよかった、場所がわかるならすぐ迎えにいける、わ……ね……
「ねぇここ」
そこは海から離れた、大陸にある小さな国。
昨晩いろいろ考えながら私がずっとずっと眺めていた場所。
「白箔国ですね」
レーヘンが地図を見上げて、言った。
どうして?
あの国で一体何が起きているの?
あの距離を一瞬で移動なんて……
「……もしかしてダウスタルニスに干渉したというのは白箔国の精霊なの?」
「そのようです」
この問いにはベウォルクトが答えてくれた。
「ファムさまが命名する少し前にオーフが何らかの方法で話をつけ、自国に招待したようです」
ベウォルクトが地図を見上げると同時にラオリエルの隣に黒い印が1つ現れる。
「ダウスタルニスの現在位置も出しておきます」
「ありがとうベウォルクト。こんなことになるなんて、結局命名が間に合ったのかわからないわね、これ」
「手遅れではないですよ。くろやみ国の精霊として正式登録できたのでもう行方不明にならず、いつでも情報を追うことができます」
そうね、安心できる部分もある。
嘆いても仕方ない、先のことを考えないと。
「状況をみると、これは精霊側の動きにライナとシメオン、ラオリエルが巻き込まれたという事よね」
今の段階では、誰かがうちの国のものを狙ったわけじゃないと考えていいのかしら。
白箔国が…………もう! どうしてこんな事になったのか考えるのはいったん後回し!
感情に飲まれている場合じゃないわ。色々言いたくなるのを飲み込んで、前のめりになっていた背を王座に預け、ゆっくりと深呼吸。
わからないことが多くても、優先順位ははっきりしているわ。
「巻き込まれた子たちの安全は守られていると思う?」
「ダウスタルニスの状態次第かと。ファムさまはどう考えますか?」
ベウォルクトが珍しく聞き返してきた。
「……今のダウスタルニスが昔の状態に近いのなら守ってくれると思うわ」
私が子供だった頃、あの精霊はよく面倒をみてくれていた。放り出されて腹を立てた事はあっても、危ない目にあったことは無いはず。
「私はあの精霊を信じるわ」
名前も姿も無くしてしまっていたのに、思い出もほとんど消えちゃっているのに、そこだけは覚えていたから、海の上で再会した時も怖いとは思わなかった。
「それにライナはこの国で精霊とのやりとりに慣れているし、シメオンはライナがいるから危ないことはしないでしょうし、ラオリエルだっている。あとは、そうね、白箔国は平和な国だからいきなり乱暴な扱いを受ける事もないはず」
「そうですね、ダウスタルニスとラオリエルの位置情報をみると一緒に行動しているようですし、迎えに行くことを優先させて問題ないでしょう」
レーヘンが何か細々と地図を操作しながら言う。
「緊急事態ですし、上空にいる精霊に継続して最新の白箔国の様子を見せてもらうよう依頼しますか?」
「そうしてちょうだい。ベウォルクトは」
「白箔国の精霊オーフに関してもう少し情報収集します」
「お願いね、それとダウスタルニスに変化があればすぐに報告してね」
「わかりました」
きっと大丈夫と信じて、私たちに出来ることをやっていきましょう。
まずは手に入った位置情報をマルハレータのところに送って、それから……
「ねえマルハレータ、ライナ達を迎えに行く方法を考えるのを任せていいかしら。私もカニールとラオリエルに直接話をしておきたいの」
あの二羽はどちらも国を出るのが初めてだったから、こんな事になって怯えているかもしれない。
『ああ、わかった。ズヴァルトを先行させるつもりだったが、そのまま準備出来次第出発させる。それと別に提案したい事があるが、これは後で話す。……あいつらと連絡をつけたサユカがどちらもひどく動揺していたと言っていた。女王の声を聞けば安心するだろう』
◆
ローデヴェイクが渡してきた鎧は装甲部分が半分程になっていた。それでもいつも通りにアンダースーツの上に着込んでいく。
「必要な箇所は残したが、破損したパーツは全部外して最低限の修理だけだ。あとはこれで補う」
そう言われ追加で見覚えのない黒い外套を手渡される。
「これは……」
「船の補修材で造った。精霊がやっていたやつの見様見真似だ。この鎧で重要なのはお前の命脈をなんかアレする事らしいからな、これで気密度を上げる」
雑な説明と共に鎧の上から外套を着てみる。上半身の外装の多くが外されているのもあって、前を閉じても窮屈さはなく、裾も切れ込みがあるので身動きするのに問題無さそうだった。
「腕上げて静止しろ」
ローデヴェイクはズヴァルトの両肩にぐるりとベルトを通すと背中で交差させて固定し、さらにフツヌシを持つと柄で叩くようにして外套越しにひし形の鋲を鎧の上腕や肩など数カ所に打ち込んでいく。
「やるだけやったからな、こっからは専門外だ」
あまり納得していない顔つきのローデヴェイクが離れようとするとマルハレータが止める。
「おい、剣はどこに持つんだ」
「ああ? アタッチメントが……すぐ用意する」
ローデヴェイクは船室に走っていき、マルハレータは急造ズヴァルトの周囲をゆっくりと歩いて大きな不具合がないか“診て”いく。
「今回の装備は感知機能と通信装置を優先させた。頭部と腕、首元から胸部にかけてのあたりだ。あとは無いよりマシといった程度だから、戦闘はなるべく避けろよ。鳥の影霊をうまく使え。通信回線の構築はサユカ、守りはカニールに、法術関係はザウトに丸投げしていい」
「はい」
マルハレータは話しながらいくつかの鋲に指先で触れ、補強する法術を施していく。
「この鎧は全身の命脈補強が重要らしいが、その調整はおれやローデヴェイクには扱いきれない。いつも担当している精霊も不在だ。だがうちの国が造った機構なら同行するペーペルが、命脈に関してはあっちにいるラオリエルが担当できる。だから鎧の最終調整は合流後に行うことになる」
一通り確認し終えたマルハレータはズヴァルトの顔を見上げる。
「サユカ経由で妹達と話をしておくか?」
「無事であるならいいです。すぐに迎えに行きますから」
「そうか。海上のカニール回収後そのまま白箔国へ向かう事になるが、移動経路は追って女王から指示がある。現在地は常に確認しておけよ」
「わかりました」
「出来たぞ。これで外部装置を取り付けろ」
戻ってきたローデヴェイクに投げ渡されたのは、取り付け部品つきのベルトだった。
「あと弁当だ。三人分の朝食を詰めた」
「あ、ありがとうございます」
手際の良さに驚きつつもズヴァルトは弁当を受け取って鞄にしまい、ゲオルギに騎乗すると装備の最終確認にとりかかる。
ベルトを腰に巻き、剣を取り付けているとマルハレータが近づいてくるのが見えた。
「追加の乗客だ」
その手には灰色の小さなうさぎ。
「えっ」
「あいつらの現在地は女王が前にいた国だ。こいつは女王の記憶を持っているから現地の地理に詳しい。案内役だ」
そう言いながら鳥の影霊達が収まっている鞄を開けようとする。
「あの、せめてこっちの鞄に……」
大丈夫だとはわかっているが、見た目が猛禽類と草食動物が一緒にいる光景にズヴァルトは不安になったので、うさぎは別の鞄の中に入れてもらった。
「今回おれとローデヴェイクは後方支援役になる。何かあればすべて女王に指示を仰げ」
「わかりました。あとあのこれ、さきほど大空騎士団団長経由で渡されたものです」
ズヴァルトは竜の鞍に取り付けた一番小さな鞄から長方形の厚みのない箱を取り出すと、マルハレータに渡す。エシルから一方的に渡されたものではあるが、形式からして自分宛のものではなかった。
「おそらく他国からの書状です」
「ふーん、わかった。こっちで預かっておく」
マルハレータは箱を見ると一瞬目を細めて受け取り、ゲオルギの鼻先をひと撫でして離れていく。
「では、行ってきます」
ズヴァルトが姿勢を正して合図を送り、竜は翼を広げて甲板から飛び立っていった。
作者は強襲型ズヴァルトと呼んでます。