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「黒炎の隼」  作者: 蛙鮫
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「学園最強」

 隼人は戦慄していた。黒髪の美しい少女が凄まじい力で手首を握ってくるからだ。


「で、どうだ?」


「どうだ。じゃなくて嫌ですよ」

 

「ああ、そうだ! 入会の仕方は簡単だぞ。この書類にサインを」


「急に話進めないでください」

 彼女の意見に賛同しないせいか、手首を握る力が強くなって来た。


「というかなんで俺なんですか? 聖堂寺に声をかければいいじゃないですか!」


「彼女はもう生徒会のメンバーだよ」


「えっ? 何それ。初耳」

 隼人は初めて耳にした事実に驚きつつも、断りを入れるため、口を開いた。


「大体。なんで俺なんですか?」

 

「この学園は規律的な面はしっかりしている一方で数人の半グレが存在する」

 早見の言葉を聞いて、昨日の男子生徒達に奇襲されたのを思い出した。


「だから、君のような実力が必要だ」


 早見の真剣だった。多くの人間のために頭を下げる。簡単にできることではない。このような責任感の強さこそ彼女が生徒会長として選ばれている所以だろう。


「それでも嫌です」


「なら理由を聞かせてくれ」


「俺は一人でいたいんです。人と群れたいわけじゃない」

 一個体で強ければ蒸れる必要はない。弱いからこそ群れて、トラブルやストレスの原因になるのだ。


「じゃあシンプルに決闘で決めるのはどうだ?」


「決闘ですか? 自分で言うのもなんですがこう見えても特待生なのでそれなりには腕は立ちますよ」


「知っているよ。聖堂寺結巳、赤間徹。そして現場で宿主や数多の忌獣を葬ってきたその強さ」

 早見が淡々と隼人の遍歴を述べていく。彼女にとっても隼人は非常に貴重な人材ということが理解できた。


「だからこそ私も『学園最強』の名に恥じないようにな」

 早見の周りから並々ならない気迫を感じ取った。その瞬間、隼人の全身の鳥肌が一気に立ち上がり、体が震えた。

 

 恐怖ではない。武者震い。緊張と次なる強者と戦える事への喜びを感じたのだ。


「試合は明日の放課後。闘技場にて」


「分かりました」

 隼人は試合を承諾して、生徒会室を出た。



「生徒会長と何を話していたの?」

 生徒会室の出るとすぐ外に結巳が腕を組んで立っていた。


「生徒会に入会させられそうになった」


「それで、結果は?」


「決闘で入会か否か決定することになった。でも良い機会だ。この学校で最強と呼ばれている人と戦えるんだからな」

 隼人は興奮とさらなる強者と戦える喜びで口角が上がった。


「早見先輩。彼女は強いわよ。二つ名の通り、この学園では最強よ。まあいずれ私が越えるけどね」

 結巳が両手を腰に当てて、胸を張った。結巳自身もかなり実力も向上している。彼女の望みである聖堂寺当主も現実味を帯びてきている。


「さて準備しますか」

 隼人は体を引き延ばして、明日の準備に取り掛かる事にした。


 試合当日。隼人はいつも通り鍛錬に励んでいた。しかし、内心は凄まじい緊張感を抱いている。


 『学園最強』と言われた早見沙耶との試合に備えているからだ。負ければ生徒会入学。一人の時間を重んじる彼からすれば由々しき事態だ。


 そのことを考えるだけで木剣を振るう腕がいつもより加速し始める。

「必ず勝つ!」

 隼人は朝食の時間帯までひたすら木剣を振り続けた。




 放課後、闘技場の待機室にて瞑想をしていた。試合の緊張感を少しでも紛らわすためだ。瞑想をしていると心に安らぎが訪れて、自然と心が落ち着いていく。


「松阪さん出番です」

 呼び声がかかると隼人はゆっくりと立ち上がり、聖滅具を手に取った。



 会場に足を運ぶと隼人はあることに気づいた。観客が野次を飛ばしていない。おそらく隼人の実力が認められてきているのだ。


 しかし、隼人にとってそんな事はどうでもいい事である。今、彼の目を引くのは目の前の少女である。


「今日はよろしくね」


「はい」


「それでは試合開始!」

 審判の合図とともに試合が開始された。隼人は聖滅具を展開するとともに一気に警戒心を高めた。


 早見の聖滅具は隼人と同じ日本刀型の聖滅具だった。


閃光フラッシュ!」

 早見がいきなり、異能を使って真っ先に突っ込んできた。しかし、速度は唐突に対処できるものではなかった。

「ぐっ!」

 隼人はなんとか攻撃を防いでいるが、攻撃の隙を生み出せない。


「げりゃああ!」

 隼人はなんとか早見を切り離して、自分から攻め込んだ。凄まじい金属音と火花が飛び散る。


 両者激しく拮抗し合っている。隼人も攻撃しつついつのタイミングで異能を発動しようか迷っていた。


「異能は使わないのか? 出し惜しみしていたら負けてしまうぞ?」


「過分な心遣いどうも。でもここぞって時に出すのが必殺技ですよ? 先輩」


「ならケリをつけさせてもらうぞ!」

 早見が後ろに下がり、距離を置くと急に構えを取り始めた。隼人は警戒心を高めるとともに攻撃に備えた。


「貫け! 憤怒閃光レイジ・フラッシュ!」

 彼女が剣先を上に掲げると光が集まっていく。隼人の背筋に冷たい汗が流れる。


 本能的に今から繰り出される一撃は危険だと判断したのだ。


影焔かげほむら!」

 隼人は黒炎を生み出して、刀身を縦にした状態で後ろに下がった。彼女の攻撃を少しでも緩和するためだ。


「はあああ!」

 その瞬間、目にも止まらない速さで早見の剣先が彼に向かってきた。


「ぐっ! 重い!」

 凄まじい速度と威力。隼人は耐えきれず、後方まで吹き飛んだ。


「痛ってえな」

 隼人はすぐさま態勢を立て直して、燃え盛る刀身を構えた。異能なしで戦うのはこれ以上無理だ。しかし、使うという事は試合できる時間も限られてくるという事だ。


「黒い炎。いつ見ても不可思議だな」


「俺もたまに思いますよ!」

 隼人は異能の影響で軽くなった四肢を存分に使い、距離を詰めていく。紅蓮の刃を早見に叩き込んでいくたびに彼女の表情に焦りが見える。


「すげえ」


「なんだ。あの二人」


「化け物じゃねえか」


 観客席から驚愕したような声が漂っている。


閃光フラッシュ!」

 早見が再び、異能を使って凄まじい勢いで切り込んできた。相変わらず速いが異能によって身体能力が上がった隼人は先ほどより楽に躱すことができた。


「はあ!」

 隼人と早見の刀身が再び、激しく火花を散らして重なる。闘志と闘志がぶつかり合い、二人の気迫が闘技場を支配していた。


「くっ。やっぱり強いな。出し惜しみしてられねえ!」

 隼人は早見が距離を置いた瞬間、自分の手のひらを傷つけて刀身に垂らした。黒炎が油を得たように激しく燃え上がった。それとともに柄を伝って体が熱くなっていく。


「いくぞ!」

 隼人は先ほどとは比にならない速度で早見に斬りかかった。彼の体力はもう限界に近づいていた。


 一刻も早く決着をつけなければ敗北は免れない。


「さっきより早い!」


「絶対勝つ!」

 意地でも勝利する。隼人の中にあるのはこれだけだった。


「私も負けない! 一人の剣士として!」

 隼人の攻撃に抗うように早見も次々と攻撃を叩き込んでいく。二人の叫び声と金属音が鳴り響いた。


 その時、刀身に触れる感覚が軽くなった。早見の聖滅具が折れたのだ。隼人は静かに剣先を早見に向けた。


「負けたよ。松阪隼人くん」

 彼女の宣言と同時に会場が沸いた。周囲は一気に歓声と拍手に包まれた。


「良かったぞ。松阪!」


「会長もお疲れ様でした!」


 辺りから隼人多胎を賞賛する声が聞こえた。


「本気で強かったですよ。先輩」

 隼人は彼女に手を差し伸べた。早見がゆっくりと立ち上がり、疲労感漂う笑みを浮かべた。隼人自身、後半はかなり追い詰められていた。


 時間稼ぎでもされていた場合、こちらの体力がなくなり、持久戦で敗北していた可能性があったのだ。



 試合を終えて、疲れた足取りでゆっくりと待機室に戻る。


「さすが学園最強の称号は伊達じゃないな」

 疲労で重くなった体をなんとか動かしていると結巳が腕を組んで立っていた。


「お疲れさま」

 目の前に結巳が腕を組んで立っていた。


「見ていたのか」


「まさか学園最強に勝つなんてね」


「かなりきつかったけどな」

 隼人は軽く笑みを浮かべた。その途端、結巳が二重になり始めた。視界が定まらなくなってきたのだ。


「ちょっと、松阪君? 大丈夫?」


「ああ、もんだ」

 続きを言おうとした時、隼人の視界は一気に真っ黒になった。



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