「緩やかな日」
夕日が突き刺す森の中、十歳の松阪隼人は銀色の髪を揺らしながら走っていた。
「待てよー!」
「鬼ごっこで止まるやつはいないよ!」
前方では友人の男の子が白髪を靡かせながら、無邪気な笑い声を上げて隼人から逃げていた。
「はあ、はあ」
隼人は疲労のあまり、その場で尻餅をついた。
「僕の勝ちだね」
男の子が勝ち誇ったような表情で低い態勢の隼人を見下ろしている。
「ふざけんなよ。お前、速すぎるんだよ」
「えっ? 隼人が遅すぎるだけじゃない?」
「お前なあ」
男の子が口元を押さえながら、堪えるように笑い始めた。隼人も彼の反応に釣られて笑った。すると周囲が眩い光に包まれて見えなくなっていった。
「ん?」
照りつくような朝日がカーテンの隙間から隼人の顔に当たっていた。
「夢か」
夢の光景に懐かしさを覚えた松阪隼人は深くため息をついた。
気がつくと隼人は白いベッドの上に横たわっていたのだ。周囲を見渡して自分が今、学園の保健室にいる事に気がついた。
「まさか。試合後に」
思考が巡らせていると部屋の扉が開く音がした。扉の方に目を向けた時、そこには驚いたような表情の結巳がいた。
「松阪くん」
「聖堂寺。お前が運んでくれたのか。ありがとうな」
顔を合わせた瞬間、結巳の目が少し潤んだ。どうやらかなり心配をかけていたようだ。
「良かったわ。本当に」
「すまない。迷惑かけた」
「本当よ。いきなり倒れるんだもの。1日寝込むなんてどれだけ疲れていたのよ」
結巳が少し赤くなった目元をこちらに向けて、目つきを鋭くした。
「体が重くなったり、鼻血が出るとかは何度もあったんだけどな。まさか意識が飛ぶとはな」
ため息が溢れた。自分でも異能の負荷の重さを理解しきれていなかったのだ。
「早見先輩は?」
「彼女なら隣の医務室で眠っているわ」
「そうか」
隼人は彼女の安否を聞いて、胸をなでおろした。今まで以上に壮絶な試合を行ったのだ。
「でもこれで学園最強の座はあなたよ」
「興味がない。俺が目指すのはもっと別のものだ」
隼人は強く拳を握りしめて、胸の中にある憤りを再燃焼させる。
「相変わらず凄まじい向上心ね」
「向上心ない奴はここではやっていけんだろ。俺は俺のやり方で突き進むまでだ」
語気を強くして、己の硬い意志を吐き出した。すると結巳の携帯が鳴った。
「はい。お母様。ええ。分かりました」
結巳が何やら穏やかではない表情を浮かべて、電話を切った。
「明日の放課後。忌獣対策本部で会議があるわ。私達も出席するようにとの事よ。きっと何か重要なことが明かされるはずよ」
「分かった」
結巳から告げられた言葉に少し暗雲が立ち込めるような雰囲気を感じ取った。
ありがとうございました!




