32,究極エコ・モード。(前半ロガン視点)。
──ロガン視点──
異変はすぐに起きた。
カストとの交信が途絶えたのだ。
まさかとは思うが、敵の襲撃を受けたのか?
ロガンは瞬時に作戦を変える。
カストの遠距離狙撃ができない以上は、カルメンを使うしかない。
最も火力のあるカルメンを、付近の高台へ向かわせた。
カルメンの《大獄炎》で、護衛隊ごとフランチェスカを焼き払うのだ。
「カルメン。標的を目視次第、《大獄炎》を使え」
「了解した」
カルメンを見送ってから、ロガンはベニートにも命じる。
「カルメンが失敗したときに備え、貴様も『網』を張っておけ」
ベニートも移動し、ロガンとアベラルドだけが残った。
2人がいるのは森林の中。
ロガンはデバッファーであるため、囮になるとき以外は表に出ることはない。
ロガンは念のため、フランチェスカの護衛隊に対して《最弱化》を発動しておく。
アベラルドが笑った。
「心配しすぎですぜ、リーダー。カストと交信が途絶えたのは、ただのスキルのトラブルでしょう。カルメンの《大獄炎》が全て焼き払ってお終いですぜ。
オレたちが心配しなきゃならねぇのは、《大獄炎》の巻き添えを食わねぇことだけで」
ロガンはうなずく。
アベラルドの言う通りだ。
田舎者の護衛隊など恐れるに足らず。
だが──
ロガンはハッとした。
「カルメンは何をしている? なぜ《大獄炎》を使わない? 一体なにが──」
刹那。
ロガンは背後から刺し貫かれていた。
胸部から突き抜けてきたのは、骨刀の切っ先。
「なん、だと──」
ロガンはパニックに駆られた頭で考える。
アベラルドの《絶対防御》は、なぜ反応しなかった?
見やるとアベラルドは倒れていた。鼾が聞こえてくる。
(バカな──こんなことが──)
耳元で女の声がした。
「あんた達を潰したのは、《エコの王》。このパーティ名を冥途の土産にしなさいよ」
骨刀が捻られ、ロガンは血を吐いた。
(なぜだ──なぜ私たちが、こんな、ことに──?)
★★★
──遡ること3分前。
★★★
この戦い、長期戦は不利っぽい。
そこで僕は、《節約》を[究極エコ・モード]に切り替えた。
これは3分間しか使えぬモード。3分経過すると、1時間は一切の《節約》が使えなくなる。
だけど、その価値はある。
まずは狙撃手。
このカストに対して、『狙撃する』を究極節約。
ところで、究極の節約とは何だろうか。
たとえば月の食費を究極節約するとは、一口も食べないことを意味する。
節約を究めた先にあるのは、無。
よって『狙撃する』の究極節約とは、狙撃不可能な状態。
そのために、カストの視力を無くした。
「シドニー、狙撃手を仕留めてきてくれ。狙撃手が潜んでいる場所は分かるね?」
「当然だぞ、トラ兄」
シドニーが出撃。これで狙撃手カストは片付いた。
さて、次に≪壊滅の華≫はどう動くか?
などと推測する必要はない。
『敵の行動を推測する』を究極節約。
これで推測する必要がなくなる。
瞬間、≪壊滅の華≫リーダー・ロガンの思考が、僕の脳内に流れ込んできた。
なるほど、次はカルメンの《大獄炎》か。
《大獄炎》を使うには、莫大なMPの充電が必要だ。
なら簡単。
【エコ領域】派生スキル、《浪費》。
カルメンのMP充電を強制浪費させ続ける。
いつになってもカルメンは、MPを貯めることはできない。
今頃、混乱していることだろう。
ついでにロガンの《最弱化》も、究極節約で無かったものにしておく。
ところで、カルメンを倒すために送り出したいのはリビーだけど……
うーん。これはやりたくなかった。甘やかすのは当人のためではないから。
しかし、選択肢はなさそうだ。
そこで、リビーの『二日酔いの苦しみ』を究極節約。
「リビーさん、仕事して!」
馬車内から、ウォーハンマーを装備したリビーが現れる。
清々しい表情で。
「皆様、おはようございます。晴れ晴れとした朝ですね」
いえ、いまはお昼すぎです。
リビーの敏捷性マイナスを、究極節約で無効化。
その上で、『移動するエネルギー』を節約。
リビーの敏捷性が一気に上がる。
「リビーさん。あそこの高台に《壊滅の華》の魔導士が潜んでいるから、倒してきて。向こうはMPを貯められないから、まともな攻撃魔法は使えないよ」
「承知いたしました」
御者台の隣にいるライラが、僕の脇腹を小突いた。
「トラヴィス。敵の《網毒》の『網』は不可視。回避できずメンバーが毒状態になっても、すぐに回復魔法をかける準備はできている」
「ありがとう、ライラ。ただ準備しておく必要はないよ。先に回復しておこう」
『毒状態になったのを回復する』を究極節約。
これで、毒状態を回復する、を先取りした。
ライラが驚く。
「≪エコの王≫全員にヒールを使った分のMPが、いま消費された」
「これで誰かが《網毒》の『網』にかかっても問題なし。すでに毒状態は回復してあるからね。
それとライラ、手綱をよろしく」
ライラに手綱を預けてから、僕は御者台から飛び降りた。
「クローイ、行くよ。《壊滅の華》のリーダーを討ちにいこう」
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