31,エコ戦闘、起動。
リビーが死んでいる。
──としか思えないこの顔色の悪さ。
これが深酒した人間の末路。二日酔いという名の地獄。
「うー、うー、うー、うー」
規則的に呻き声を上げている。
そんなリビーは、馬車の椅子を片方占領して寝かされていた。
この馬車は、フランチェスカたちの馬車なのだけど。
いま僕たちは主要街道を外れた脇道を進んでいた。
道ではあるが舗装されていないので、馬車の振動も激しい。それがリビーをさらに苦しめているのだった。
まぁ自業自得だけど。
都市ガボロを出発して、2日目。
フランチェスカと護衛隊長アダム──と死にかけのリビーを乗せた馬車が、進む。
御者台にいるのは、僕とライラ。
クローイは馬車の屋根に寝転がっていた。チェルシーは小走りで馬車についてくる。何でも体力作りをしたいとのことで。
シドニーは──うん、どこかに消えた。
半分野生なシドニーは、勝手に消えること度々。ただ帰ってくると、鹿などの獲物を運んできてくれる。おかげで食事には困らない。さすが我が妹だ。
ちなみに他の護衛たちは、都市ガボロに残してきた。邪魔なだけなので。
ふいにシドニーが戻ってくる。手ぶらで。
「どうしたのシドニー、狩りに失敗するなんてらしくないね」
「トラ兄。北のほうで巨大な火柱が立ったぞ」
「巨大な火柱? 馬車の位置からだと確認できなかったなぁ。ここらへん周囲に高い木がありすぎ」
「あれは魔法によるものだ。なかなかに強力な火炎系魔法だったぞ」
「魔法かぁ。クローイ、悪いんだけど偵察してきてくれる?」
屋根の上から気怠そうな返事。
「あたし、いまお昼寝中」
「いやいや起きてるよね。頼むよクローイ。《節約》で『移動するエネルギー』を節約するからさ」
「仕方ないわねぇ」
などと言いながらも、『移動エネルギー節約』状態で走るのが好きなことを、僕は知っている。
シドニーが欠伸しながら、馬車の隣を歩き出す。
ふと南方へ顔を向け、鼻をくんくんさせた。
「敵意の臭いだぞ、トラ兄。シドニーたちは狙われているようだ。かなりの手練れだぞ」
「嫌だなぁ」
『奇襲されるショック』を節約しておく。
それから馬車内のフランチェスカに言った。
「フランチェスカさん。これから何が起きても、馬車から出ないでね」
「敵襲なの? アダムを好きに使って」
「お任せください!」
やる気満々のアダムには悪いけど、途轍もなく足手まとい。
「えーと。いやアダムは、僕たちの最後の砦なんだ。フランチェスカのそばを離れずに、彼女を守護してほしい」
「はっ!」
と、馬車の中で敬礼しているアダム。
クローイが神速で戻ってきた。
「なんかさぁ、感じの悪い冒険者が4人、北からこっちに向かってくるわよ~」
すぐにシドニーが訂正する。
「感じの悪い冒険者は5人だぞ。1人だけ別ルートで移動し、南側から回り込んできている」
「どーいうこと?」
シドニーの代わりに僕が説明した。
「シドニーの嗅覚は、遠くからでも敵が発する殺意を嗅ぎ取れるんだ。どれくらいの距離までいけるんだっけ?」
「2222メートルだぞ」
「わぉ。さすが亜人ね」
「むっ、いまのは亜人差別的な発言だぞ! シドニーは抗議する!」
「シドニー、それは後で。そろそろ奇襲されると思うからさ、みんな緊張感を持っていこう。あ、忘れてた。チェルシー、こっちに来なさい」
マラソン状態だったチェルシーが戻ってくる。まったく息を切らしていないあたり、かなりのスタミナだ。
「なんですかアニキ!」
「敵が来るから。覚えたての防御スキルを発動できるよう準備しておいて」
「了解です!」
瞬間、僕の脳内に情報が流れ込んできた。
『奇襲のショックを節約する』とは、敵の情報を知るという意味だ。
その情報が《節約》によって取得されたわけ。
「敵について分かったから、みんな聞いて。
フランチェスカを狙っているのは、元≪空の芙蓉≫のAランクパーティ≪壊滅の華≫。いまは永久追放された身だ。
リーダーの名は、ロガン。
デバッファーだ。スキル《最弱化》は、敵パーティ・メンバー全員を、半分の数値まで弱体化できる。攻撃力も防御力もMPも、数値化できるものは全て半分。
タンクの名は、アベラルド。
ロガンを守護するのが役目だ。ユニークスキル《絶対防御》は、物理攻撃を全て防御する。だからアベラルドを倒すには、魔法攻撃でいこう。
クラウドコントローラーの名は、ベニート。
スキル《網毒》は、『網』に触れたものを毒状態にしてしまう。またこの『網』は不可視。気をつけて。
アタッカーの名は、カルメン。魔導士だ。
充電することで、大量のMPを瞬間的に貯められる。
使用する魔法の中で最強は、《大獄炎》。半径500メートルに地獄の猛火の柱を出現させる。
シドニーが目撃した火柱は、これだね。
というか、この人が極端にヤバいよね。おかしいでしょ、半径500メートルって。
もう一人、アタッカーの遠距離型の名が、カスト。
攻撃スキル《完全狙撃》は、1000メートルクラスの遠距離狙撃が可能。
南にいるのが、このカストだね」
一息ついてから、僕は言った。
「敵は冒険者を殺してきた連中だ。情けはかけなくていいよ」
「ね、言ったでしょトラ。程よいクエストは向こうからやって来るって」
「アニキ! アタシはいつでもOKです! アニキを守りますよー!」
「トラ兄。シドニーもようやく実戦を迎えられそうだぞ」
「回復、任された」
「……」
リビー以外から心強い返事がきた。
とりあえずリビーは二日酔いをどうにかしてください。
「じゃ、みんな。よろしくー」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




