29,≪壊滅の華≫。
クローイとシドニーを捜していたら、剣を装備した男に襲われた。
「お嬢さまから離れろ、このクズがぁぁ!」
とか怒鳴られながら。誰がクズだ。
『剣を装備』しているだけでは剣士とはいえない。実際、素手の僕に瞬殺されたくらいだから。まぁ『殺』は大袈裟なので、瞬ボコか。
「フランチェスカ。このエセ剣士も追手の一人らしいね。人をクズ呼ばわりするとは、外道だな。よし、もう一回蹴っ飛ばしておこう」
「まって! 彼はアダム。わたしの護衛隊長よ!」
「えー。それはもう一回蹴っ飛ばす前に聞きたかった」
「まって、と言ったのに」
「ごめん」
にしても、このレベルで護衛隊長とは。リビーならデコピン一発で殺しちゃいそう。まぁ一般市民の枠内なら、こんなものか。
「あの、すいません。殴ったり蹴ったりして。大丈夫ですか?」
フランチェスカが、護衛隊長アダムが立ち上がるのに手を貸す。
「アダム、勘違いするにも限度があるわよ。この方は、わたしを誘拐したわけじゃないわ。トラヴィスさんと言って、わたしたちを無事にランセへ送り届けてくれるのよ。何といってもトラヴィスさんはね、冒険者なの。冒険者なのよ!」
やっと意識がしっかりしたアダムが、驚愕と感動の眼差しを僕に向けてきた。
「なんと冒険者でしたか!」
王都では一般市民も冒険者に慣れ切っているので、わざわざ特別視することもない。
しかし地方では冒険者も珍しく、無条件の憧れの対象とされる。
「まぁ冒険者といっても、ギルドにも所属していない身だから」
「謙遜することないわトラヴィスさん。護衛隊の中で最強を誇るアダムを瞬ボコするなんて。やはり、ただ者ではないわね」
え、今のが最強なの? その護衛隊、『弱すぎて群れを追放されたゴブリン』にでも蹂躙されそうなんだけど。
その後、クローイとシドニーを見つけ出すのに成功。
クローイは宝石店から出てきたところを捕まえ、盗んだ宝石は店に戻させた。
シドニーは地下闘技場で無双しているところを回収。
……自由気儘にも程があるよ、この人たち。
レストランで短期バイトしていたチェルシーも連れだして、ようやく≪エコの王≫がそろった。
「はいみんな、注目。商業都市ランセに向かいながら、護衛クエストをすることになったよ。彼女が依頼主のフランチェスカ。そちらが護衛隊長のアダム。事情はまだ聞いてないけど、追手がいるらしい」
クローイが挙手して、
「報酬は?」
「成功したらたっぷりと」
「こらこらトラ。ちゃんと事前に金額は決めておかないとダメよ。さてさて──」
フランチェスカの身なりをチェックしているのだろう。すぐに貴族の娘と見抜いて、報酬も吹っ掛けるつもりだな。
ところがクローイは残念そうに溜息をついて、
「いいとこ出せて、20万かしらね」
クローイは良心的な盗賊なので、依頼主に無理な要求はしない。となると──この額では、フランチェスカは貴族ではなかったのかな?
「着ているドレスは高級なものだけど、よく見るとだいぶ傷んでいるわね。昔は財産に余裕があったけれど、いまは新調することもできない。没落貴族というところでしょ」
フランチェスカは恥じ入る。
「そうね。あなたの言う通りよ。盗人さん」
「盗賊ね、盗賊。盗人じゃなくて」
「だけど、お金が入る当てはあるわ。最強フレーズ『遺産相続』が!」
それ、最強フレーズなのかな。少なくともクローイは感動しているけど。
事情はこういうことだ。
ジルガ家という名家がある。そこの当主が先日亡くなり、遺産相続リストに遠縁にあたるフランチェスカの名もあった。
しかし期限内にジルガ家まで出向き、生存を証明しなければならない。それができないと自動的に相続放棄と見なされる。
つまりフランチェスカに『事故』が起き到着できなければ、そのぶん別の相続人たちの遺産分が増えるわけ。
「ドロドロしているなぁ。僕の嫌いなパターンだ」
「トラ、あたしはこーいう話、大好き」
「うん、そんな気はした」
シドニーが退屈そうに言う。
「いずれにせよ、他の相続人が雇ったのは素人だろう? そんな雑魚が何十人来ようと脅威ではないぞ。簡単なクエストだ。シドニーはずっと寝ていても問題ない」
チェルシーがリビーを揺り起こすことに失敗。
「アニキ、リビーの姐さんはすでに爆睡しています!」
「放っておいてあげて。というかヘタに起きたら、たぶん吐くからやめて」
ライラはどうでも良さそうに場を眺めていた。やがて口を開く。何か発言するのか──と思ったが、すぐに口を閉ざした。コメントはないらしい。
僕はみんなを見回して、
「じゃ出発しようか~」
簡単すぎる護衛クエスト開始。
★★★
──ジルガ家の兄弟──
場所はジルガ家。
長男イチガは歯噛みしていた。イチガが雇った傭兵崩れから、いっこうに連絡がこないのだ。フランチェスカを仕留めたという連絡が。
「小娘ひとり仕留めるのに、一体いつまでかかるんだ?」
デカンタからワインを注いでいた次男ニガが言う。
「心配することはないよ兄さん。念のため、僕も別の連中を雇っておいたから。彼らなら失敗することはない」
「自信満々だな?」
「当然だよ。兄さんが雇ったのは傭兵崩れだ。中途半端なんだよ。できるだけ安く済ませようという魂胆がバレバレ」
「黙ってろ。なら貴様はどこの誰を雇ったというのだ?」
ニガは憎たらしく笑った。
「僕が雇ったのは、冒険者崩れだ。≪壊滅の華≫。現役時代はAランクパーティだった。しかし別のパーティを皆殺しにしたことで、永久追放されたのさ。分かるかい、兄さん。彼らこそが、プロ中のプロさ」
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