27,王都出発。
管理局本部を脱出し、5ブロックほど離れたところでいったん止まった。
「トラ兄。官憲を怒らせた以上、ほとぼりが冷めるまで王都を離れる必要がありそうだぞ」
「ちょうどいいわ。商業都市ランセに向かって出発しましょー」
ノリと勢いだけで生きているクローイがそう言った。
「出発準備もしていないのに?」
と僕が抗議してみると、クローイは言うのだ。
「盗賊の心得。30秒で高飛びできるよう常に準備しておけ、よ」
「いや僕たち冒険者。というか君も冒険者」
誰かにわき腹を小突かれたと思ったら、ライラだった。
「あの、ライラ。それで、どうする? 僕たちに付いて来るのが嫌だったら、誘拐されたと言えばいいよ。そうすれば脱獄にならないし」
ライラは拗ねた様子で、そっぽを向く。
「では、行かない」
「そう……残念だけど仕方ないね」
すると今度はシドニーに小突かれた。なぜみんな、僕を小突きたがる?
「トラ兄は今でも女心が分からない」
「そうかな?」
「あれは4年前。隣村に住んでいたエミリー。あの子がトラ兄に手作りチョコレートを贈ったとき、トラ兄は何と答えた? 『家族みんなで美味しく食べるね』。エミリーは泣いて帰った。トラ兄は女心が分からない」
「僕の何がまずいんだ?」
シドニーは僕の耳元で囁く。
「ライラというヒーラーは、トラ兄に『一緒に来い』と言ってほしいのだ。強引さが大事なのだ」
「そうなのか?……」
……なんで僕は、妹に女心の手ほどきを受けなきゃならないのだ。
ダメ元でライラに言ってみた。
「ライラ。そんなこと言わないで僕と来て欲しい。というか、えー、来い!」
ライラはハッとした様子で僕を見てから、こくんとうなずいた。
「ん、行く」
「……あ、良かった。ありがとう」
シドニーを見たら、『ほら見ろ』という顔をしていた。
「じゃ、予定を言うよ。きっかり30分後、王都の東西通用門前で落ち合おう。クローイはリビーを連れてきてくれ。僕たちはチェルシーを拾っていく。ライラ。悪いけど君の家は見張られているかもしれないから、家には戻れない。必要なものは隣町でそろえてくれ」
「分かった」
「じゃ、ひとまず別れよう」
クローイが走り去り、僕たちも移動を開始。
チェルシーは集合住宅の3階に暮らしていた。玄関扉をノックすると、パジャマ姿のチェルシーが出てきた。
「あい、おはようですアニキ」
寝ぼけているらしい。
「おはようではないよ、まだ夜だから。というか寝るの早いね」
「ロウソク代がもったいないので、早寝するんです」
さすがチェルシー。その節約魂には頭が下がるよ。
「大至急、王都を発つことになった。準備に何分かかりそう?」
「すぐですよ、アニキ! 30秒で高飛びできるようにしておくのが、多重債務を抱えた我が家の心得ですからね!」
「うん、なんかごめん」
チェルシーをパーティに加えて、東西通用門に到着。
通用門の衛兵に見つからない建物の陰で、クローイとリビーが来るのを待つ。
ところが一向に来ない。何か事件が起きたのか──と心配し始めたとき、僕はしくじったことに気づいた。
リビーの敏捷性マイナスを考えれば、僕が彼女を迎えに行くべきだった。
やがて2人がやって来るのが、姿が見える前から分かった。
大声で喧嘩しているので。
「……あの2人、状況が分かってるのかな。一応、管理局から逃走中なわけなんだけどね」
「トラ兄。このパーティの行く末が、シドニーは心配だ」
僕は駆け足で、2人のもとに行った。
「ちょっと静かにしてくれるかな。近所迷惑だよ」
「あのね、トラ。あたしはこの女とは仲良くできそうもないわ。ノロいのは許せる、100歩譲って許せるけれど。なんなのよ、この態度は。足を引っ張っているんだから、もっと申し訳なさそうな顔をしなさいよ」
「トラヴィス様。わたくしも相手がこの方でなければ、申し訳なく思うはずでした。ですが、これほど失礼極まりない方に対して抱く感情はただ一つ。ハンマーで頭をぶち割りますが? です」
僕はうなずいた。
「分かった。これは熱い友情が生まれる前振りなんだね。あんなに仲が悪かった2人が今や大親友となるわけだね。いつの日かは──いつの日かは!」
パーティがそろったところで、東西通用門を通過。衛兵はリビーの顔パスで。
こうして≪エコの王≫は王都を出発したのだった。
目指すは商業都市ランセ。
さらに要塞ゴーゴン。
クエストは、狂った精霊アルマイギャの討伐。
よーし、やるぞー。
──1章完、2章へ続く──
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