26,《暗黒喰い》。
その夜。
冒険者管理局に忍び込むということで、僕は本部の近くで待機していた。一緒にいるのはクローイとシドニー。
敏捷性重視のメンバー構成だ。
「じゃ作戦を確認するわよ。侵入して目当てのヒーラーを見つけたら回収して出てくる。ね、簡単でしょ?」
シドニーは僕の顔を見ながら、クローイを親指で示した。
「トラ兄。こんなのがサブリーダーだと聞いて、シドニーは心配だぞ」
「まぁクローイも真面目にやるときは、出来る冒険者だから」
たぶん≪エコの王≫で一番頭が切れるのはクローイ。ただ基本がテキトーな性格だからなぁ。
「じゃ、トラ。《節約》をお願い」
「了解」
クローイの『移動するエネルギー』を節約。結果、敏捷性がぐんと上昇。
「トラ兄、シドニーも頼むぞ」
シドニーは故郷にいたとき、【エコ領域】に登録済み。
というか、初めて登録した相手がシドニーだった。
シドニーにも『移動するエネルギー』を節約。
「あ。だけどあたし達が速くなりすぎると、トラが付いて来れないわね」
「どうかな。ちょっと試したいことがあるから、僕は気にせず進んで」
「そう? それじゃ行くわよ」
まずクローイが移動を開始。シドニーが続く。
通常なら2人のスピードに、僕が付いて行くことはできない。
そこで『パーティの仲間に付いていくエネルギー』を節約してみた。
瞬間、僕はシドニーの後ろを走っていた。目にも留まらぬ速度で。しかもこれ自動走行。
あっという間に管理局本部の塀を乗り越え、外壁のところに到着。
クローイが驚いて僕を見やる。
「トラも『移動するエネルギー節約』で、こんなに敏捷性を上げたの?」
「いいや。僕の場合、もとの素早さが低いからね。だからもっと工夫する形で節約してみた」
「何でも有りね、《節約》。改めてその凄さを感じるわ」
「シドニーにしてみれば、当たり前すぎる話だぞ」
シドニーはそう言ってから、外壁に片手を当てる。
「《炎刃》」
炎の刃が現れ、外壁を丸く切り裂いた。入口ができる。
魔法はスキルと違って詠唱を必要とする場合もある。ただシドニーは、ほとんどの魔法を無詠唱で行える。
「あら、便利。だけど刃だけが必要だったので、炎はいらなかったわよね」
「刃系の魔法は、《炎刃》しか使えないのだ。よって炎もセット」
地味に燃え広がりそうな炎を消してから、僕たちは本部内に入った。
ここまで接近すれば、『捜索している人を見つけるエネルギー』を節約できる。
すぐにライラがどこの牢屋にいるか分かった。
「まって、まって。あたしを誰だと思っているのよ。盗賊のクローイ様よ」
牢屋の扉を魔法で破壊しようとするシドニーを、クローイが止める。
それから手早くピッキングして、扉を開けた。
ライラは寝台で熟睡していた。
クローイが呆れた様子で腰に手を当てる。
「気持ちよさそうに眠ってるわね。さ、起きなさい」
クローイが蹴とばすと、ライラがビクッと跳ね起きる。
「敵襲!」
「違うわよ~。あといま叫んだから、看守に気づかれたわね。さすが≪来航の善≫のヒーラーだけのことあるわ」
ライラは目をこすりながら、僕たちを見た。
「……トラヴィス」
「どうもライラ。こんなときに何だけど、≪渚の剣≫を辞めて≪エコの王≫に入る気ある?」
「入るなら脱獄させてあげる。入らないなら、置いていく」
と、クローイがすかさず言った。
するとライラは呆れた様子で言う。
「もともと私は明日、釈放される予定だった」
「じゃ、脱獄未遂で釈放取り消しね」
「……」
シドニーが猫耳をぴくぴくさせる。
「誰か来るぞ、トラ兄」
「看守かな? ここは穏便に済ませよう」
僕とシドニーで、近づいて来る者を待ち構えた。やがて現れたのは、銀髪に片眼鏡の男。管理局の者だろうが、看守ではないようだ。
「なぜ私が残業しているときに限って、問題が起こるのだ?」
「どうもすいません。怪しい者じゃないんですよ」
「トラ兄、それは無理がある」
「侵入者は処分する権利を与えられている。面倒だ。消滅しろ」
男が右手を突き出し、無詠唱で魔法を発動。
「≪暗黒喰い≫!」
瞬間、漆黒の影のようなものが飛び出し、僕たちを狙ってきた。
思うに、この影に触れたら一発アウトな気がする、どうかな?。
僕は自分とシドニーに対し、『初見殺しに対するショック』を節約。
シドニーは攻撃スキル《けものパンチ》で、影を弾き返した。
これに男は驚愕する。
「まさか!? 触れたものを消滅させる私の≪暗黒喰い≫を、殴り飛ばしただと!?」
『初見殺しに対するショック』を節約するということは、初見殺しを一度は無かったことにできるわけ。
しかし、初見殺しの内容が分かった二度目以降は、無かったことにできない。次はちゃんと回避しよう。
そこで自分とシドニーに対し、『≪暗黒喰い≫を回避するためのエネルギー』を節約。
これで自動で回避運動してくれる。楽な上に確実。
「バカな! こんなことが──」
焦っている片眼鏡の男。
ここぞとばかりにシドニーが突撃しようとしたので、僕は止めた。
≪暗黒喰い≫とかいう魔法、どう考えても殲滅魔法の一種だ。
そんなものを挨拶がわりに使うとは、この男が手ごわい魔導士であることは間違いない。あと正気でもない。
無駄に戦うだけ損だね。節約精神に反する。
ちょうどクローイが来たので、逃走するとしよう。
「クローイ、頼む」
「はい、はい~」
クローイが《煙幕》を発動。
男の視界をくらます。
この隙に、僕たちはライラを連れて退散した。
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