25,救出クエスト。
精霊と戦うなら、シドニーの回数制限ヒールだけでは心もとない。
やはり、ちゃんとしたヒーラーが必要だ。
そこでライラに話を持ちかけてみることにした。
ライラと2人で落ち着いて話したいので、彼女の家を訪れるつもり。
で、さっそく問題発生。
ライラの家って、どこ?
≪来航の善≫時代、ライラとはクエスト関連以外の会話はほとんどしなかった。
地味に覚えている世間話といったら、ダンジョン攻略中の食事休憩のときのこと。
ライラが水筒から持参した牛乳を飲んでいたので、僕は聞いたわけだ。
「ダンジョン入ったの昨日だけどさ。その牛乳、腐ってないの?」
するとライラは僕を睨みつけて、
「私の牛乳は、腐らない」
「……そうなの」
これだけ。
というわけで、≪渚の剣≫元受付嬢のリビーに尋ねてみた。
ギルドに所属する冒険者は現住所を知らせなければならず、受付嬢が全て記録しているので。
〔莫迦と金づる亭〕の賑やかな店内で、リビーは困り顔で僕を見返した。
「トラヴィス様。わたくしは残念ながら平凡な記憶力の持ち主です。また記憶系スキルの所有者でもありません。よって各冒険者の住所など覚えておりません」
「だよねー」
≪渚の剣≫に問い合わせたら教えてくれるだろうか? うーん、無理だろうなぁ。
同じギルドに属していても、正当な理由なく個人情報を開示するとは思えない。ましてや追放された身の僕には。
「でしたら、わたくしが友人に頼んでみましょうか」
僕が困っていると、リビーがそう提案してくれた。
「え、お願いできる? じゃ頼むよ。だけどリビーさんも、今は≪渚の剣≫を辞めた身だよね。大丈夫なの?」
「はい。≪渚の剣≫の受付には、わたくしが教育した後輩がおります。わたくしの頼みなら断らないでしょう」
リビーは自信満々だ。これぞ先輩と後輩の絆だね。
で、30分後。
リビーが〔莫迦と金づる亭〕に戻ってきた。よほどお怒りモードらしく、こめかみに青筋が立っている。
「……どうかしたの?」
リビーは虚空を見つめながら呟いている。
「何度、あの小娘のために遅刻を誤魔化してあげたことでしょう。その報いがこれとは。ただ受けた恩を忘れて、わたくしの依頼を断っただけではありません。
あろうことか、このわたくしに対して『先輩も早く身を固めないと婚期を逃しますよ~』などと助言をしてくるとは。何様でしょう、あの小娘は」
「……」
どうやら、後輩さんに情報提供を断られたらしい。
まぁ、後輩さんは責められないよ。すでに部外者のリビーに、ギルド・メンバーの個人情報を明かすほうが倫理に反しているし。
「じゃ、ライラの現住所は分からずじまいだね」
リビーはきょとんとした顔で、僕を見やった。
「いいえ、トラヴィス様。ライラ様の現住所でしたら入手いたしました」
「え? だって後輩さんには断られたんだよね?」
「はい。その上、わたくしにいらぬ助言をしてきました」
ああ、婚期を逃す云々という助言ね。さては後輩さんは結婚したばかりだな。
「ですので、わたくしは後輩に申しました。『あなたが昔、小遣い稼ぎに売春組合に入っていたことを、愛しの旦那様はご存じなのですか』と。
すると後輩は面白いくらい顔面蒼白となり、求めた情報を教えてくださいました。やはり先輩と後輩の絆は永遠ということでしょう」
「……うん、そうだね」
リビーだけは怒らせないでおこう。
何はともあれ、ライラの現住所をゲット。
あとは訪ねて、こうお願いするだけだ。
──≪来航の善≫も≪渚の剣≫も辞めて、≪エコの王≫に入ってよ。≪エコの王≫はいまだにギルド登録もできていないけど、気にすることはないって。と。
うーむ。断られる未来しか見えない。
ま、当たって砕けよう。
ところが、まず当たることができなかった。
ライラは留守だったので。クエストに出ているのかもしれない。
ライラの家の前で困っていたら、近所の人が声をかけてきた。
「ライラさんなら、まだお帰りになっていませんよ」
「まだ? というと、長期のクエストに出発したんですか?」
「いいえ。ライラさんは連行されました、冒険者管理局に。それからまだ戻っていないのですよ」
冒険者管理局に?
どういうことだろ?
僕は管理局本部に向かい、ライラに会いたいと伝えた。
だが現在、ライラへの面会は禁じられているという。
意外だ。管理局に冒険者を留置する権利があったのか。
確かに機関名は『管理』ではあるけど、名称だけの有名無実と思っていた。
〔莫迦と金づる亭〕に戻ると、リビーだけでなくクローイの姿もあった。
クローイはリビーの肩に腕をまわして、何やら陽気に話しかけている。リビーは迷惑そうだが。
僕は席に座って、エールを注文した。それからライラが管理局に留置されているらしい、と話す。
するとクローイは嬉しそうに言いだした。
「ほらね。クエストは向こうからやって来るわけよ」
「クエストだって?」
「管理局から、あたし達のヒーラーを救出するわけ。これはれっきとした救出クエストね」
いや、脱獄クエストじゃないの、それ。
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