24,狂った精霊。
「で、どんなクエストなの?」
シドニーが転がり込んできた翌日。
カフェ〔ゴダール〕で、僕とクローイは話し合っていた。
議題はもちろん、クローイが受注してきたクエストについて。
クローイはカフェオレをすすってから、
「ひとことで言うとね~。精霊を殺す」
僕は当然ながら、飲んでたコーヒーを噴き出した。
「精霊を?」
「そうそう」
「あのね、クローイ。噛んで含めるように教えてあげる。精霊とは、魔法の源。それを殺すのは禁忌であり──禁忌。大事なことなので2回言った。
あと、そもそも殺すのが不可能に近い。精霊を相手にするよりも、フロアボスの群れと戦ったほうがマシ。だいぶね」
姉が巫女なので、精霊のことはそれなりに詳しいつもり。
クローイは楽しそうに笑いながら、
「まぁ聞きなさいよ。ちゃんと説明してあげるから。まずその精霊は、イカれちゃっているわけ。長く生きすぎたのよ。たとえ精霊だって何万年も生きていれば、頭のネジがゆるんでくるってわけ」
僕は渋々ながら認めた。
「……確かに、精霊が暴走した事例はある。人民に被害が出たため討伐隊が出されたことも」
「今回も討伐隊が出されるわよ。Sランクパーティ≪陽光の餐≫がね」
≪陽光の餐≫。
≪暁の咆哮≫ギルドが誇るSランクパーティか。
まてよ。クローイはいっとき≪陽光の餐≫に属していたはずだ。
とりあえず、そこには触れないでおこう。
「話が見えないなぁ。≪陽光の餐≫に依頼されたのに、どうして僕たちにも依頼が来る? 重複依頼は禁じられているのに」
「禁じているのは、ひとつの注文主が複数の発注をすることでしょ。≪陽光の餐≫に発注したのは、州なわけ。ローズ州の長官がね」
国内は13の州と、どこの州にも属さぬ王都に分けられている。各州のトップに置かれた役職が長官。
また商業都市ランセは、ローズ州内にある。
「ローズ州の長官が、暴走した精霊討伐クエストを≪陽光の餐≫に発注したと。じゃあ僕たちに発注したのは?」
「ケド商会。商業都市ランセの大手商会から直々の依頼ってわけ。このクエストに成功したら、大出世は間違いなし」
クローイとケド商会の繋がりはなんなのか。なんか法的に真っ黒い繋がりっぽいので、聞かないでおこう。
「別々の発注元があり、クエスト内容は同じ。これは競争というわけだよね。≪エコの王≫と≪陽光の餐≫、どちらのパーティが先に狂った精霊を討つのか。その割にはのんびりしているね」
≪陽光の餐≫が狂った精霊を仕留めた瞬間、必然的に僕たちのクエストは失敗となる。
クローイがそれを許すはずがない。負けず嫌いのかたまりである、このクローイが。
しかし、やはりクローイは悠然と構えている。
「狂った精霊の名は、アルマイギャ。
土属性の精霊で、1年のうちほとんどは、自身で建造した要塞ゴーゴン内にいる。でね、要塞ゴーゴンは普段、大地の中にあるわけ。そして55日ごとに地上に現れる」
「なるほどね。要塞が地中にある間は、アルマイギャを討つことはできないわけだ。次に地上に現れるのを待たなきゃならない。だからまだ余裕があると」
「そういうこと」
「で、次に要塞ゴーゴンが地上に現れるのは?」
「きっかり26日後。それまでに準備万端ととのえて、待ち構えていればいいわけよ」
「26日後……クローイさ。真面目な話、精霊に勝てると思う? Sランクパーティが難儀する相手だよ」
「トラの《節約》があれば、何とかなるでしょ」
軽んじられるのも残念だけど、頼りにされすぎるのも考えものだ。
精霊に寿命はないので、オベリスクにやったような禁じ手も使えないし。
「26日後までに、≪エコの王≫の実力を格段に上げる必要がありそうだね」
「そうねぇ。パーティ練度を上げてかないと。何か考えはある?」
僕はじっくり考えてから結論付けた。
「姉が言っていた。何事も何とかなるものだよ~、と。まぁ、何とかなるんじゃないの」
「究極のところで発揮されるトラのテキトーさ、あたしは好きだなぁ」
「いずれにせよ、ちゃんとしたヒーラーはやっぱり必要そうだね」
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