23,冒険者管理局(ライラ視点)。
──ライラ──
ライラは鉄格子を凝視しながら憤っていた。
(これは、人権、無視!)
ロッコ洞窟から生還した≪来航の善≫は、4人。ライラ以外は、ボーン、ダン、ビーバ。
死んだのはジョーとアーロン。
ジョーはその死を見届けたが、アーロンは知らない間に死んでいた。子蜘蛛の一体に頭蓋に穴を開けられ、脳味噌を吸い出されていたらしい。
その話を聞いたときライラは思ったものだ。
(グロい!)
一方、ビーバは生存した。右足を切断され大動脈から血を噴き出しているのを見たときは、これはダメだと思ったものだが。
ライラのヒールによる回復効果では、この出血には追いつかないためだ。
それでもビーバが助かったのは、リディアのおかげ。
あのとき──。
鋼鉄蜘蛛を瞬殺したリディアは、棒切れに炎を纏わせた。火炎系のスキルなのだが、なぜ棒切れが燃え尽きないのかは不思議。
そしてその火炎で、ビーバの切断口を焼いたのだ。出血が止まった。
「焼灼止血法。覚えておきな、ヒーラーちゃん」
どうやら、タンパク質の熱凝固作用による止血法らしい。
ライラは思った。次回までにはちゃんと止血魔法を覚えようと。
こうして≪来航の善≫はボロボロになって、ロッコ洞窟を出た。
王都に戻ると≪渚の剣≫に保護され、治療を受けた。
ここまでは、まだいい。
問題は、このあと。
≪渚の剣≫への報告を終えたライラは家路についた。
ところがその途中で、半ば拉致のようにして連行されたのだ。
政府機関・冒険者管理局に。
そして今にいたる。
『安全のため』という意味不明な理由で、管理局本部の半地下の牢屋に入れられてしまった。
天井付近の鉄格子から、わずかに外の光が入ってくる。
ふいに牢屋の扉が開き、看守が入ってきた。
「人権侵害を訴える!」
という抗議は無視され、ライラは看守に連れられていった。その先にあったのは尋問室。
2脚の椅子だけが置かれており、片方には男が座っていた。
20代後半の男で、銀髪、片眼鏡。
ライラは直感的に思った。この男は魔導士だ、と。
「エイブラムスだ。さ、座りなさい冒険者ライラ」
この男、余計なことは話したくない性格とみた。そこはライラと通ずるものがある。そこだけだが。
「これは人権侵害」
「いや、我々には正当な捜査権が与えられている。そのため身柄を保護することは、人権侵害にはあたらない。しかし不快な思いをさせてしまったことは謝罪しよう。
だがこれだけは言っておきたい。君が非協力的ならば、より不快な思いをすることになるだろうと」
後半はあからさまな脅し。ライラは少し驚いている。
管理局が出来たのは、20年前とまだ日が浅い。
そして冒険者たちの管理局への評価は、人畜無害。
なぜか?
いまさら政府機関が、四大ギルドを統制できるはずもない。そして冒険者の人権を無視すれば、四大ギルドを怒らせることになる。
つまり管理局は、冒険者の顔色をうかがうはずだと。
しかしこのエイブラムスは、ライラの顔色をうかがう気はゼロに見える。
というより人権剥奪を平気でやりそうだ。
つまりは、拷問か。
ライラは方針を変えた。
「協力する」
「ありがたい。では、さっそく聞こう。ロッコ洞窟で何があった?」
「はじめから?」
「はじめから、詳しく」
指示に従い、ライラははじめから詳しく話した。
最初は昼鋼草の採取クエストだった。ところが驕ったボーンの暴走。鋼鉄蜘蛛との遭遇。
≪来航の善≫の弱体化。バッファーの交代がその理由。
詳しく話せと言ったわりに、ここまでエイブラムスは無関心そうだった。
いや一か所だけ、少し興味を惹かれたらしいのだが。
「それほどに、以前のバッファーは優秀だったのか?」
ライラはうなずいた。
「そう。規格外のバッファーだった。《節約》というユニークスキルが、チート級」
「節約? 確かにユニークだな。そのバッファー、名前は?」
「トラヴィス」
「冒険者トラヴィスか……覚えておこう。では続けて」
そして続けた。
ライラが死を覚悟したとき──≪死滅の上弦≫のリディアが助けに現れたことを。
ここでエイブラムスの視線が鋭くなる。これだ。エイブラムスが求めていた情報とは。
剣聖候補の女剣士リディアのこと。またはリディアが属している≪死滅の上弦≫そのもの。
「冒険者リディアは、君に何か話したか?」
「第30深層より深くもぐり、探索クエストを行いにいくと。その途中で、私たちがピンチなのを見かけたと」
それからリディアが焼灼止血法したことも話す。
「それだけか?」
肯定しようとして、ライラはあることを思い出した。ライラたちを第2深層まで送り届けたときだ。
リディアはあることを注意していた。
「立方体のモンスターを見つけたら、全力で逃げろ、と」
★★★
──エイブラムス──
ライラの尋問後。
エイブラムスが執務室に戻ると、部下が報告に来た。
「ある冒険者パーティより、ロッコ洞窟での異常を知らせる報告が届いておりました」
「どのような異常だ?」
「第3深層でオベリスクと対峙。倒したという話です」
エイブラムスは考える。
先ほども尋問中にオベリスクが出てきた。そして、このタイミングでの報告。面白い。
「オベリスクを倒したということは、名の知れたSランクパーティだったのだろう」
ところが部下は困った顔をした。
「いえ、それが──フリーの冒険者パーティでして。よくてDランク。どう考えても、オベリスクを倒せる戦力とは思えません。それもあって虚偽報告と認定され、ここまで届くのにも時間がかかった次第です」
エイブラムスは舌打ちした。
ロッコ洞窟関連の情報は、全てこちらに回せと指示してあったというのに。もちろん迅速に、だ。
「それでオベリスクを倒したというパーティは?」
「≪エコの王≫というパーティでして。リーダーの冒険者名は、トラヴィス」
エイブラムスはハッとした。
「トラヴィスか──今日その名を聞くのは、2度目だ」
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