22,亜人の魔導士(妹)。
自宅に戻ると、来客者がいた。我が物顔で台所を漁っている。
亜人の少女だ。この大陸の先住民である亜人。その中でも猫人族の一人と見た。
亜人専用の衣服では、お尻から尻尾が出ている。
その尻尾を掴んでやった。
「こら泥棒」
瞬間、身軽な動作で猫人族の少女は飛び上がり、空中で反転。
片手で逆立ちした。
「泥棒とは失礼だぞ、トラ兄」
「なんだシドニーか。──え、シドニー!? なんで王都にいるんだ?」
シドニーは我が家で一緒に暮らしていた亜人の子。姉さんが捨てられている幼いシドニーを拾ってきて、
「トラちゃんの妹ができたよ~」
という第一声を放ったのは、今でもよく覚えている。僕は食べていたシチューを噴き出した。
それ以来、シドニーとは実の兄妹のように育ったものだ。
「シドニー。君は姉さんの手伝いのため里に残ったはずだろ」
「姉上が『シドニーちゃん。お姉ちゃんのことはいいから、この広い外の世界を見てくるんだよ~』と言って送り出してくれたのだ。あと『節約の心も忘れちゃダメだよ~。骨つき肉は骨までしゃぶりなさい』とも言っていた」
前半は良かったが、後半は余計だな。しかしブレない点は、さすが姉さん。
「それで王都に来たの」
「トラ兄と住もうと思って。シェアすることで家賃は半分で済むぞ」
「家賃半分! それは素敵な発想だ。王都の家賃相場の高さときたら。姉さんが聞いたらショック死するかもしれないレベルだし。あ、でも僕はしばらく王都を離れるんだった。冒険者の仕事でね」
「なら、シドニーもついていくぞ。シドニーも冒険者になったばかりだしな」
「シドニーも冒険者になったの? なんでまた?」
「冒険者はクエストというので国中を移動すると聞いた。それでお金をもらうと。『外の世界』を見ながらお金を稼げる。効率的でよろしいではないか」
「なるほどね。ところで冒険者証をゲットしたということは、どこかのギルドに入ったの?」
「≪空の芙蓉≫とやらに入ったぞ」
四大ギルドでも、『個』としての力は最強といわれる≪空の芙蓉≫に?
さすがと言うべきか、我が妹。それを自慢するでもなく言うあたりが、また妹らしい。心の底から、どこのギルドに入ろうがどうでもいいのだろう。
「そこのギルドには勇者候補の人もいるんだよ」
「勇者などに興味はないぞ。シドニーが興味を持つのは、銭だ」
「あのさシドニー。金の亡者と節約家は異なるからね。まぁいいや。せっかく加入したところ悪いけど、明日にでも≪空の芙蓉≫を脱退してきてよ。どうせ冒険者やるなら、ウチのパーティに来て欲しい」
「いいぞ。初めからそのつもりだった。ギルドには冒険者証とやらを無料でゲットするため、入ったに過ぎない」
そうなのだ。ギルドに加入して冒険者証を得る分には、無料。お金はかからない。
ただギルド未加入の状態で、クエスト攻略による冒険者証の入手だと、発行料を支払う必要がある。
発行料といっても、たいした額ではない。が、シドニーはその発行料が惜しかったのである。
さすが姉さんに育てられただけのことはある。
『無駄遣いするなかれ』。我が家の家訓のひとつ。
「良かった。シドニーが来てくれたおかげで、元所属パーティからヒーラーを引き抜く必要がなくなった」
シドニーは顔をしかめた。
「ヒーラーか。しかし、シドニーは回復魔法は得意ではないぞ。回数制限タイプだしな」
魔法には無制限と回数制限の2通りがある。
無制限とはMPがある限りは、何回でも使える魔法。ただしMPが尽きたら当然、使えない。
一方、回数制限はMPとは関係なく使える回数が決まっている。
たとえば2回制限の魔法なら、2回しか使えない。MPが有り余っていても関係ない。ただし24時間経過すると、また使用回数が戻っている。
「ヒールは5回までだ」
「《節約》で使用回数を節約すれば、20回くらいは使えるよね。それだけ使えれば大丈夫さ」
シドニーは肩をゆすった。
「トラ兄が構わぬのなら、シドニーはいいぞ」
「決まり。じゃシドニーの好物ミートスパゲティを作ってあげる」
シドニーは瞳を輝かせた。気が早いことに、よだれを垂らしそうになっている。こんなところも変わってないなぁ。
可愛い妹のために、今夜は腕によりをかけるとしようか。
★★★
シドニーは魔導士だ。
それも汎用型の魔導士。攻撃型・防御型・属性型・回復型。どの魔法も使える。ただ得意とするのは攻撃方面なので、ロールはアタッカーのメイジとなるだろう。
とにかく、シドニーは天才肌。
≪エコの王≫としては、頼もしい仲間が増えたことになる。
唯一の欠点は気まぐれで、自分勝手なところがあることか。
……あれ。すでにそんな性格の盗賊が≪エコの王≫にいたような。
ああ。みんなが仲良くできますように。
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