21,クローイの帰還。
仮死状態になった。
とたん精神世界で、姉の声が聞こえてくる。
『トラちゃーん。まだ死ぬのは早いよ~。節約ソウルを世に普及する前に死んではダメよ~』
というわけで生還した。姉の指示には逆らえないのが弟の哀しい性。
とたん、涙でぐしょぐしょのチェルシーが抱き着いてくる。
「アニキぃぃぃい! 死んでしまったかと思ったですよぉぉ!」
「よしよし、まだ生きてるよ。節約しすぎて仮死ってただけ」
チェルシーは鼻をすする。
「アタシも菜っ葉だけで5日過ごしたときは死ぬかと思ったですぅ」
うーん。それは節約ではなくて、ただの極貧生活では? チェルシーも苦労してきたんだなぁ。
「トラヴィス様。ご無事で何よりです。心配いたしました」
リビーも目元が赤い。少し泣いていたのかな。
どうやら、僕はかなりヤバいところまで行っていたようだ。姉の助けがなかったら、そのまま死んでいただろう。
それにしても故郷にいながら精神に呼びかけ、助けてくれるとは。さすが姉さん、巫女だけのことはある。だから姉さんには頭が上がらないんだなぁ。
「オベリスクは?」
「トラヴィス様が倒されました。かなり危ない橋をお渡りになったようですね?」
「まあね。その価値はあったようだけど」
オベリスクの死骸を見やる。こうして見ると、ただの転がっている立方体だが。
これがドムたちを皆殺しにしたのだ。あの《熱線》の貫通力は、Sランクパーティのタンクでもギリギリ防げるかだろうし。
眺めているとリビーがオベリスクの死骸を拾い上げた。
「オベリスクの死体はS級の素材でもあります。結果的には、大収穫となりましたね」
「ドムたちの冒険者証を回収しよう」
冒険者の死体を見つけたときの規定は明確ではない。
死体を近くの安全な場所まで運べるならば運ぶ。それが無理でも、埋葬できるなら埋葬。最悪は冒険者証を取り、戦死したことをギルドに届ける。
8人の遺体を運ぶ術はないし、ここでは埋葬もできない。だからせめて冒険者証だけは持っていこう。
「鋼鉄蜘蛛が第1深層まで来てしまったのは、オベリスクから逃げ出したからではありませんか?」
リビーの推理は納得できる。
ただそれなら、どうしてオベリスクは第3深層まで上がってきたのか。第25深層より深いところで、何かが起きている? 現在進行形で?
さすがにそこまで確かめに行くことはできない。
「王都に戻って、この異常を伝えよう。それで僕たちの調査クエストは終了とする」
★★★
王都に戻った僕たちは、まずドムたちの冒険者証を届けた。
次に政府の機関・冒険者管理局まで行き、ロッコ洞窟の異常を伝える。
といってもお役所仕事なので、書類に書いての提出だが。早ければ数日中に返事が来るはず。
その後はガウトに採取した昼鋼草を渡す。クエスト完了。
ところで、自主的に採取した素材の夜鋼草とオベリスク。夜鋼草はいいとして、オベリスク素材はかなり貴重。ひとまず王都銀行の貸し金庫に預けた。
翌日には冒険者管理局から返答があった。
以下の通り。
──ロッコ洞窟の件は改めて調査する。その調査の結果次第で、貴殿たちが調査クエストを行ったのかを判断する。
調査クエストと認定されれば報酬が出るけど。正直、期待できない。冒険者管理局はケチで有名だし。
とりあえず、向こうで改めて調査するならそれでいいか。冒険者としての義務は果たした。
それから数日間。
ガウトから簡単なクエストを受注して、ちびちびと稼ぐ。
クローイが帰還したときには、≪エコの王≫の所持金は54万クレジットになっていた(チェルシーも5万クレジットを支払い済み)。
「はじめまして。あたしがサブリーダーのクローイよ、よろしく~。あ、ロールはクラウドコントローラーね」
≪莫迦と金づる亭≫で顔合わせ。
クローイがサブリーダーであることに異論はない。ただ自己紹介でちゃんと主張しておくのが、クローイらしい。
「リビーと申します。アタッカーを担当いたします。よろしくお願い致します」
「アタシはチェルシー、将来性のあるタンクでーすっ!」
チェルシーは最初の採取クエストによって、晴れて冒険者証をゲットしていた。これで立派な新米冒険者だ。
クローイは、リビーとチェルシーを値踏みした。
「ふーん。アタッカーとタンクをゲットしたのね。あとはヒーラーだけね。誰かいないの、ヒーラーの知りあい?」
ここに来て、ハッとした。ヒーラーの知りあいなら、1人だけいる。ただ別のパーティに所属しているけど。
クローイが僕を見やって、
「ねぇトラ。≪来航の善≫のヒーラーを引き抜いてきなさいよ」
まるで僕の考えを読んだかのような発言だ。盗賊だからか、こういうのが鋭いんだよなぁ。
「それって冒険者の信義に反するんじゃないかな?」
「当人が望むなら問題ないでしょ。とにかく、話だけでも持ち掛けてみて。次のクエストには、絶対にヒーラーが必要なのよ」
つまり、負傷は避けられない難易度のクエストということか。
「分かった。話すだけ話してみるよ」
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